文句あんのか | ナノ
嬉しくない人気


早朝。血を吐き捨て拳に付いた血を振り払いながら遼は歩いていた。

「畜生結構気に入ってたんだぞジャケット。血で、きたねぇじゃねーか。」

毒づきながら今日はどうすっかな、と朝日を眺める。しかし、視線を感じて振り返ると海堂が顔を青くしていた。

「おはよーカオリン。今日もランニングか?」

「先輩、そのカッコ…。」

「あぁ、バカが喧嘩売ってきてな。面殴られてキレちまった。」

隠す事でも無いとあっさり言ってしまう遼に海堂は慌てて腕を握った。

「血塗れじゃないッスか!ウチ近所なんで。」

「いや、これ全部返り血なんだけど…」

駆け出した海堂に引っ張られ嫌でも走らざるを得なくなった遼。人並み以上に体力のある遼だから平然と走っている。

「母さん!救急箱!」

家に入るなり大声を出した海堂に穂摘は遼を見て慌てて持ってきた。

「先輩、怪我どこッスか?」

「面だけ。湿布でじゅーぶんだから気にすんなって。慌てすぎ。」

「服の血は…?」

「だから返り血だって。服破れてねぇだろ。」

ほら、とジャケットを脱ぐ遼のTシャツは汚れていない。

「佐々木先輩…朝から心臓に悪いッス。」

「人の話はちゃんと聞こうぜ?あ、手ェ洗わせてくんねえ?」

「こっちッス。」

ザバザバと手に付いた血を洗い流し、口に溜まった血を吐き出す。口の中を切ったのだ。

「朝から騒がしいと思ったら…あの佐々木遼じゃないか。」

「はよっす。悪いな、カオリンに血塗れスプラッタ見せちまった。んじゃ帰っから。湿布ありがとな。」

海堂の父、飛沫も恐怖を隠せない遼。ただ居るだけで威圧感がある。ジャケットを引っ掛けて玄関へと向かう遼に弟の葉末が話し掛けた。

「自販機投げられるって本当ですか?」

「あぁ、うん。投げるぞ。今朝はポスト投げた。」

生きた伝説と少年達の憧れになっている遼。漫画のヒーロー扱いだ。

「今度投げ方教えて下さいね!」

「気が向いたらな。あー、コンビニ寄るか。」

腹減ったなーと何の気も無く呟きながら靴を履く。

「カオリーン、情報欲しけりゃ一個教えてやるからな。今日の詫びだ。」

「い、いやいいッス。俺が早とちりしただけッスから。」

「善意はちゃんと礼を言っとくからな。心配ありがとな。欲しくなったら言えよ。」

ひらひらと手を振って遼は出て行った。笑顔も恐ろしいのだから飛沫は息を吐いた。

「まさかこの目で佐々木遼を見るとは…。」

「…アレで女だから詐欺だ。」

「え?女の子?」

海堂家の朝は珍しく騒がしいものになりそうだ。


佐々木先輩。頼むから葉末に自販機の投げ方なんて教えないでくれ。実現不可能でも。ただでさえ先輩バケモノなんだから。全速力の俺と普通に走るとか女じゃねぇ。…部長の趣味、正直疑う。

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