文句あんのか | ナノ
身長差13センチ
依頼だ、と跡部に持ち掛けられ些か嫌な予感をひしひしと察知しつつあとベッキンガムへ行くなり風呂に入れられ、ドレスアップさせられた。男物で。
「馬子にも衣装、だな。」
「つーかけごたん、俺の立場何?」
同じく正装の跡部は白。遼は黒で一対の絵のようだ。華麗な跡部と艶やかな遼は間違い無く目立つだろう。
「俺の友人、だな。俺の目を甘く見るなよ?お前、結構な礼儀作法叩き込まれてんだろ。」
「女向けはな。ダンスは却下だ。」
「無いから安心しろ。確実に佐々木遼の名は知れ渡っている。勘違いさせておけばいい。」
「もっと適役が居るだろうが。おハイソなガッコなんだからよ。」
「俺様の引き立て役は要らねえ。これ以上になく最高に目立つからな、遼は。…時間だ。」
「けごたんが青薔薇で俺が赤薔薇か。見様見真似でやるぞ。」
「飲み込みの早い奴は嫌いじゃねぇな。」
ドアを開かれ、優雅に立つ遼と跡部はあっという間に話題騒然。穏やかな笑みを浮かべているのに、何故か近寄りがたい遼は跡部と違い壁の花。
「あの方は?」
「景吾様のご友人ですって。お美しい方。」
「お美しい方にはお美しいご友人がいらっしゃるのですわね。」
お嬢様方の注目の的になっている遼は心中複雑すぎてもう帰りたくて仕方がなかった。その憂い顔さえ絵になる悲しい現実。
「遼、大丈夫か?」
「勿論さ。」
帰りてぇんだよとっとと終わらせやがれ、と全面に押し出した柔らかな笑顔。
「後30分、持ちこたえてくれ。」
「景吾君の言う事なら。」
つーか俺何でも屋じゃねぇんだけど解ってんのかコイツ?と思いつつ跡部を見送る。跡部は手に汗をかいていた。怖すぎる、と。
「景吾様が薔薇ならあの方は百合のようなお方ですわね。」
「香りも高く麗しい…。」
いや、だからね?俺女なんですけどお嬢様方。そんな届く筈も無い心の声。ジュースを揺らしながら、遼は煌びやかなパーティで繰り広げられる話題に耳を傾けていた。
「お疲れ、遼。」
「本気で疲れたぞ。大した収穫も無し、お嬢様の熱い眼差しに喜ぶノーマルの女が居るか?」
タイを外しながらぐったりとソファに身を委ねる遼は深々と溜め息を吐いた。
「随分場慣れしているように見えたけどな。」
「おーいけごたん、俺んなおハイソなとこ入り浸る趣味はねぇよ。見様見真似つったろ。」
「上手すぎんだよ。あぁしてると本気で女なの忘れそうだ。」
「忘れたきゃ忘れろ。事実は変わらねえ。つーワケで今日泊めろ。帰る気も失せた。」
「俺様を見くびるな。報酬は明日渡す。」
「俺何でも屋じゃねぇからな。」
「…ヤバい時頼むと思う。」
はぁぁぁ。と遼の溜め息が部屋を支配した。
この程度じゃ掠りもしないか。遠すぎんな…俺の立場から考えれば。だからこそ欲しいのかも知れねえ。母親こそわかんねえが、父親は高名な企業の支部長。だから叩き込まれたと考えていい。全く、掴めない女だな。男のように振る舞うクセに、女である事を隠さないよくわかんねえ女。いつか洗いざらい吐かせてやるからな、遼。
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