文句あんのか | ナノ
愛すべき悪役
再び気紛れに病院へと向かった遼は、厄日のようだった。
「やぁユキチャン…っとサナゲンとあかやん。」
「やぁ、遼。今日も迷えるアリスにヒントをくれるのかな?」
にっこりと笑う幸村は相変わらずだが、真田と切原は不満そうだ。
「だから俺はチェシャ猫じゃないって。花は要らなかったか。」
「ううん、貰う。遼の選ぶ花は優しい色だし。いつもありがとう。」
遼の差し出した花束はガーベラをメインにした可愛らしいものだった。
「…俺が花束持ってちゃわりぃかよ。似合わねえのは百も承知だぞ。」
「…何でてめぇが幸村部長の病室知ってんだ。」
唸るように切原が遼を睨むが遼にはどこ吹く風。
「そりゃ単純明快、入院したのを聞いてたまぁに来てたんだよ。」
「ホントにね。加えて寂しい時に狙ったみたいに来てくれるし。世情も教えてくれるから有り難い限りだよ。」
渋い顔をして真田が幸村を見る。
「幸村、知っていて招くのか。」
「真田は遼の何を知っているのかな。俺の知ってる遼は喧嘩じゃ負け無し、神出鬼没のバケモノで男みたいな女の子。最高の脅しまでしてくれるんだ。遼も支えてくれてる。」
「俺何かした?超気紛れに来て知ってる事話すだけ話しただけのような。」
「それが俺には嬉しいんだよ。前だけ見るなって言われた気がしてね。周りも見なきゃ変わらないって。」
「ユキチャン買い被りすぎだろ。俺そんな偉い人じゃねーし寧ろ底辺だぞ。」
「そんなカッコいい筋の通し方しておいて底辺とか言えないよ?」
楽しそうに笑う幸村を見て真田と切原は目を見開く。こんなに心を開いていたのかと。
「幸村…筋とは?」
「初めて来てくれた時に、嫌なら来ないし帰って欲しければ言えって。愚痴ならいくらでも聞いてくれるって。でも遼は話上手でね、俺の悩みなんて吹っ飛ばしてくれてる。いつの間にかスッキリしちゃうんだ。いつ来るか判らないものより頼れる奴らがいるだろってさ。」
性別逆なら凄い殺し文句だよね、と笑う幸村は遼を信頼している。
「だからチェシャ猫か。答えになかなか辿り着かないヒントを出す、と。」
「うん。遼のお陰で迷いの森は抜け出せたよ。」
「幸村部長は…そいつの本性を知らないんじゃないッスか?」
幸村は首を傾げ
「本性ってさ、一概にコレと言う答えあるかな。遼は確かに清廉潔白じゃない。教えて欲しい事は対価が必要だけど遼は俺の知らない事がある事を教えてくれたし俺は満足だよ?裏で何をしていようとね。」
「ユキチャン、超意味深に聞こえんだけど。」
「おあいこだよ。」
笑いあう遼と幸村に、確かな信頼関係があると真田は確信した。男女の関係や学校や友情すら超えた関係。どちらが裏切ろうと恨まない、謎めいた信頼関係。
だからさ、遼にはいつも助けられてる。友達とかそんなんじゃなくて…俺には説明できないもの。確かな関係じゃない。でも、俺は遼を意味も無く信じてる。バカだって笑われると思うけど、遼はいつだってありのままでいるから。その正直さが、俺には眩しくて羨ましい。
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