文句あんのか | ナノ
特技と見た目のミスマッチ


ちくちく。ちくちく。遼はせっせと制服のほつれを直していた。…当然、目立ちまくる。

「みっちゃーん、応急処置出来たぜー。つーワケで晩飯期待しとく。」

立ち上がり手塚に制服を渡す姿はとんでもなくミスマッチだ。

「あぁ、すまない。…これは手縫いか?」

「オイオイみっちゃん、その年で耄碌するには早いだろ。爺さんとかっちゃん見習えよ。」

手縫いとは思えない程緻密な糸の列。遼は手先が器用なのだ。

「器用だな…。」

「言っとくがみっちゃんみてーに木工とか出来ねぇからな。万能人間じゃねーから。」

「佐々木先輩。」

くいくいと制服を引かれて振り向くと越前。

「どーしたリョマたん。」

「俺も先輩の弁当食いたいッス。」

「俺はgive-and-takeでやってっからなんか持って来い。勝てるもんなら喧嘩も買うぜ。」

「…テニスは?」

「ルール知らねえ。」

越えられない壁があるような錯覚。遼の周囲はテニス部と書いて勇者と呼ばれる人間が多い。

「ファンタは?」

「缶ジュース一本で弁当作れとか殴られても文句はねぇよな。」

「じょ、冗談ッス!」

構えた遼に対して焦りまくる越前。命に関わるから切実だ。

「リョマたんなら何メートル吹っ飛ぶかサダが喜んで測るだろうに。」

「佐々木…ウチの部員を殺さないでくれ。」

「みっちゃん、俺半殺しはやったけど殺しはやってねぇよ。」

どちらにせよ危ない。

「情報とか飯とか…佐々木先輩本気で謎ッス。」

「隠し事は山ほどあるけど分かり易いだろ。どっかの誰かの個人情報も隠し事だからな。カルピン可愛いよな。」

「なん、で。」

クックックッといつものように笑う遼は悪戯っぽく越前を見下ろし

「この学校なら俺に知らない事は殆どねぇ。美人だよな、リョマたんのお母さんは。有り難く思えよ?飯作ったり掃除したりしてくれる人。」

ポンポンと頭を叩く遼に陰は無かった。

「…にゃろう。」

「みっちゃん、リョマたんって喧嘩売るの上手いな。俺ビックリ。」

「だから、殺さないでくれ。」

深々と溜め息を吐く手塚。軽口を叩いている内は危険ではない。

「殺さないっつーの。学校じゃ戦意喪失で済ませてきただろ。アンラッキーなヤツは骨折ってたけど。」

「遼先輩って…何でも出来そうッス。」

「おーいリョマたんまで俺超人扱いなんだよ。新手のイジメか?出来る事しか出来ねぇよ。」

「その幅が広いだろう。」

「ッス。先輩男って言い張ってテニスやんない?」

「やんねえって。俺の知名度知らないだろ。キレたら手当たり次第投げんだぞ?何でも。」

「郵便ポストでも自販機でも投げるそうだ。」


それでも潔くてカッコいいのだと男子からは畏怖と尊敬の眼差しを向けられる。女子は触らぬ神に祟り無しだ。ファンクラブすら何も言えない。男女問わず喧嘩は買う。

ねぇ遼先輩。名前呼んだの気付いた?一回でいいからさ、テニスやりたい。絶対背は抜いてやるから。…何食ったらそんなにデカくなるの?と言うか、部長が好きな理由…解る気がする。

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