文句あんのか | ナノ
欲しいから奪う
「安心しろ、殺さねえからなぁ、川でも見て来いやぁ!」
額から血を流し何人もの男達を殴る蹴ると暴力の限りを尽くす遼。凶悪な笑みは見る者を戦慄させる。
「ひ、ひぃっ!」
逃げようとした男に適当な奴を掴んで投げる。ブン、と音まで聞こえそうな投げ方。
「オイオイもうおしまいかよ。呆気ねぇなぁ。骨ぐらい折る気でかかって来いや。」
パタパタと滴る血液は遼の拳から落ちていた。真っ赤になった拳は全て返り血である。鼻をへし折ったりすれば付着する。
「ってぇな…。ガーゼでいいか。」
コキコキと肩を鳴らしながら悠々と街を抜け、待ちかまえていたのだろう更なる男達をまた、力でねじ伏せる。
「よ、あっくん。けしかけたのテメェだったらおもしれぇな。」
ピン、とタバコを跳ねさせ阿久津は遼を睨む。
「なわけあるか。派手にまたやらかしたな。」
「俺は悪くないぜ?ふっかけたバカがわりぃんだ。」
「簡単な手当てならしてやんぞ。乗るか?」
「んじゃそうすっかな。痛くて気絶しそうだ。」
阿久津は鼻で笑い
「テメェがそんなタマかよ。男女。」
「あっくんひでぇな。ボコったのまだ根に持ってんのかよ。」
遼は口だけで笑うが、顔面は血塗れで恐怖にしかならない。
「その内カリは返すからな。」
「言ってろ。んじゃヨロシク。」
阿久津の後ろに乗り、阿久津の家へ向かう。その間に遼は何度か意識を手放しかけていた。
「マジで気絶しそうじゃねぇか。」
「言ったろ。頭殴られて結構ヤベェ。石頭だけど中身は普通なんだよ。」
阿久津から鏡と救急セットを受け取り、手際良く手当てしていく遼。これで学校なんて行ったらお節介がうるせぇな、などと呟きながら。
「ババァがうっせぇから帰れよ。」
「わーってるっつの。で、何か聞きてえの?」
「…特にねぇ。」
「うわ最悪。あっくんにカリ作ったとか根に持たれそうじゃねーか。」
露骨に嫌そうな顔をする遼に阿久津は笑い
「キスで勘弁してやる。」
にやぁと遼は笑った。手当てが終わると阿久津の頬に口付ける。
「はぁいこれでイーブン。文句言うなよ?どこに、なんて聞いてねえ。」
ゲラゲラ笑いながら遼は帰った。
「チッ…。」
心底面白くなさそうな阿久津。面倒な女に惚れたもんだ、とタバコに火を点け、紫煙を吐いた。
「どこがいいんだよ、あんな男女。」
ネオンに輝く街でひときわ目立つ細身の長身、誰もが恐れる情報屋であり馬鹿力を持つ怪物。俺すら歯牙にもかけない最強の女。あの女は、誰を好むのだろう?そんな下らない事を考えながらタバコを吸い続けた。
「欲しいなら取るだけだ。」
阿久津の結論。
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