文句あんのか | ナノ
見てる方がヤキモキ


物憂げに空席を見る手塚。遼は知らないが、手塚が遼を好いているのは噂にすらならない周知の事実だ。ちなみに手塚も自覚していない。

「佐々木さん、今日も来てないね。」

「不二…核弾頭に用でもあったのか?」

「いや、一部の生徒から頼まれたんだ。昼休みに少し話そうか。」

にっこりと笑う不二と疑いの眼差しを向ける手塚。

「解った。」

頼まれたとは佐々木を何とかしろと言われたのだろうと手塚は考えた。無茶な話だ、と言ってしまえば終わる。何者にも縛られず、ただ自分のやりたいように引っ掻き回す。雲を掴む方が容易い気がする。当の本人は忍足の自宅で寝ている。

「本当に馬鹿力だよね。扉もベコボコだ。」

「一発の蹴りで吹っ飛ばしていたからな。」

遼の蹴りは内臓破裂に至らしめると専らの噂だ。一撃で瀕死にする事も可能。見捨てれば確実に死ぬと都市伝説に近い。

「天下の玄人、手塚国光もみっちゃん呼ばわり出来る最強の大怪獣…最近見ないよね。俺達忘れられてたりして。」

クスクスと笑いながら扉を開ける不二。冷たく身が引き締まるような風が2人の髪を揺らす。

「佐々木さんは、才能がありすぎる気がするな。だから飽きっぽい。」

「根気が無いの間違いだ。」

「よく見てる手塚が言い切るんだ。」

ざわめきの中、ブラウン管に映された有名人と言う訳でもないのに衆目を集めてしまう遼。

「鳥のように自由に猫のように気紛れに優しかったり怖かったり…万華鏡みたいだよね。見ていてちっとも飽きない。」

「巻き込まれたら終わりだ。それで、用件は何だ。」

クスクスと不二は笑い、手塚を見た。

「せっかちだね、手塚。好きなんだろう?佐々木遼さん。妙に聡い割に力ずくじゃ通じないゴジラみたいな人にいつまで意地張ってるのかな。」

「…佐々木は腐れ縁だ。」

「来ない日は眉間の皺が1.16倍深いって乾は言ってたよ。ちゃんと捕まえておかないと…僕がとっちゃおうかな。手塚、ライバルは意外と多いみたい。」

乾と柳のダブルデータベース情報によればね。と不二は笑う。

「手塚は奥手だから死ぬ間際になってやっと言いそうだけど、その頃にはもう誰かにとられてるよ。僕がとっちゃおうかなってのは冗談だけど。いい加減気付いた方がいいよ。」

用件はそれだけ。佐々木さんはこの手の事には関わりたがらないし、捕まえておくなら今のうち。そう言い残し不二は立ち去った。

「…佐々木を捕まえるなど誰にも出来ないだろう。」

呟いた瞬間、遼の言葉を思い出した手塚。勝手に限界を決めるよな、と。雉も鳴かずば撃たれまい。挑戦してやろう、佐々木遼と言う人間に。手塚は空を仰ぎ、心で誓った。

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