文句あんのか | ナノ
いらねーよそんなもん


遼は群れない。関東最強と謳われようとも、キレると誰彼構わずブン投げるからだ。だが慕う者は後を絶たない。畏怖、尊敬、思惑が絡みつく関東。遼が最強の名を一方的に与えられたのは、百人を越えるグループの総攻撃を叩きのめしたからだった。

「みっちゃん、その話超今更じゃねぇ?ニュースにもなったじゃねーか。」

乾情報で真偽を確かめようとしたら、あっさり肯定されてしまった手塚。

「百人を越えると聞いたのだが。」

「数えてたのは143までだな。肋骨二本綺麗に折られたぞ。後スタンガンで一瞬意識吹っ飛んだ。」

当然ながら改造済みで火傷もしていた。危なっかしいどころか命の危機だ。

「しかも飛び道具付きで後ろ盾まであったから全滅に追い込んだけどな。」

これ以上は聞いたらいけない気がして手塚は質問を打ち切った。一昔前なら間違い無くスケバンだ。一時は包囲網すら作られたがあっさり破られた。それ程までに強大な力を持つ。最強の名は、伊達ではない。

「で、みっちゃん。サダにでも聞いたクチか?」

「あぁ。」

壊滅させたのはたった一人の女子中学生、などとは口が裂けても報道は不可能。佐々木遼は男として、認識し続けられている。

「中学校テニス部ネタならサダとレンちゃんとバラミヅキに聞きゃ大概知ってっからな。」

校内ならなおのこと、変化に敏感な面子だと遼は認識している。

「佐々木のネーミングセンスが壊滅的なのはよく解った。」

茶化す為でも悪質だと手塚は考える。

「手塚君(ハート)とでも呼んでやろうか?」

ぞわぞわっと悪寒が走る手塚。教室で呼ばれた日には卒倒するクラスメートが続出するだろう。

「遊んでいるだろう。」

「たりめーだ。つーかさ、何で俺の部屋で優雅にコーヒー飲んでんだよ。」

手塚が勝手に掃除した床に座り込み、遼も本を読みながらブラックコーヒーを飲んでいる。申し訳程度に存在するテーブルの前に座って。

「定期巡回だ。」

「週に一回はガッコに面出してるつもりだぞ。」

肋骨を折られた折にはきちんと彩菜に連絡していた。にも拘わらず手塚は来るのだ。本をめくる音だけが支配する。

「…掃除、だな。」

「一週間じゃ荒れねぇよ。俺結構忙しい。」

いつの世も噂話は流れるもの。それが高じて遼は情報屋紛いをしている。普通の中学生がやるような代物ではないが、遼は自分の力をある程度把握して動く。喧嘩など日常茶飯事。

「人の弱みを握って遊ぶのにどれだけ労力を割いている。」

「四割ぐらい?」

ケタケタ笑う遼を何とも言えない手塚だった。


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