文句あんのか | ナノ
当て所も行方も
あれだけの騒ぎになったにも関わらず、また再び彼等は日常生活に戻って行った。朝比奈愛美の名前も、忘れ去られつつある。
「あーねみー。みっちゃんノートあんがと。」
「明日は英語の小テストだ。」
「えー?めんどくせーからサボろっかなー。」
「サボるな。」
なんと言う事も無い、よくある光景。しかし、遼はテニス部メンバーに召集をかけていた。昼休み、屋上で遼から話があると。
「どしたのー?佐々木ちゃんがわざわざ呼ぶなんて珍しいね。」
「昨日、朝比奈愛美の事で知り合いから通報があってな。あいつ、消えやがった。」
弁当をつつきながらの会話だったが、全員が遼を見つめる。ペットボトルを飲み干して、遼は溜め息混じりに告げた。
「文字通り、消えた。鑑別所でカウンセリングやってたんだけど、夜に密室から消えたんだよ。監視カメラにも無い、警備員も居たのに綺麗サッパリな。」
「…どういう、事ッスか?」
「どういう事もそういう事。ナァ子んとこは結構、監視厳しくしてたんだぜ?俺が絡んでたから、勝手に警戒してたみてぇだ。」
海堂が呆然と訊ねるが、遼は首を竦めて答える。
あくまでも極秘だが、遼にはいつかバレる事だと伝えられたのだ。既に、朝比奈愛美への興味を無くしていた遼。
ミステリー小説のような話だが、忽然と消えるなどコネを持たない愛美には出来ない。遼も寝耳に水の出来事であった。
「佐々木、実現は可能か?」
「俺なら、出来る。けごたんには出来ない。ユキちゃんにもみっちゃんにも、俺が手引きしなきゃ絶対に出来ない。裏技だから。」
「なら、そのまま消えた事にして置こうよ。別に害は無いんだろう?」
不二の言葉に、それもそうだなと同調する声が挙がる。
部活も次第に以前のようなものに戻りつつあり、手塚は自らにグラウンド80周を課して吹っ切れたのだ。
「まーな。出たって話も無いし。一応報告。かなり引っ掻き回したからさ。」
「俺達が相談したからだし、佐々木さんは気にしなくていいよ。劇が楽しかったからね。」
大石の言葉に、滝から買った映像について話を始めるメンバー。
遼は穴があったら入りたい、とばかりに頭を抱えた。その場の勢いで行った事が、残ってしまったのだから。
跡部から遼へ、再演を希望する問い合わせが教師に殺到している、と聞かされている。
「もう劇の事言わないでくれ…色んなとこから、もう一回って言われてんだから。」
「そんだけ遼先輩が人気あるって事ッスよ。」
桃城のフォローも、あまり効果がない。
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