文句あんのか | ナノ
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遼達が恐ろしい計画を立てている最中。手塚は、苦しさを覚える程に悩んでいた。愛美と、遼についてだ。
知り合って間もない愛美に惹かれる反面、長く過ごしている遼に会うと愛美の事を忘れてしまいそうになる。
放っておけない危うさと、輝かんばかりの存在感を放つ遼。可愛らしく穏やかだが、何か隠している愛美。隠している事が気になり、柄にもなく大石に相談したが返信は無い。

「…何故だ?」

三年になってすぐ、不二から遼への恋心を指摘され挑戦すると決めていた。全国制覇の夢と、遼に想いを届ける事は今年の目的だったのだ。だが、愛美の存在が遼への想いを揺らがせる。
誰も彼もが惹かれ恐れる、孤高のトリックスター。鮮やかな程に印象づけるその姿だけではなく、意外に律儀な性格にも惹かれて止まなかった。

「…学校には、来るのだろうか…?」

神出鬼没、気紛れで生傷の絶えない生活を何度止めてくれと言い掛けたか、手塚は数えてもいない。その点、愛美は真面目に学校に通っている。まだクラスに打ち解けていないようだが、それでも自分に話しかけて努力をしているように見えたのだ。

「書いて落ち着くか。」

ノートを取り出し、手塚は日記を書き始める。
その名を聞くだけで大の男さえも震え上がる、関東最強の呼び声高い遼。それでいて、いざという時に心底頼れば多少なりとも、助力をしてくれる勇ましいクラスメート。助けるべきか、と手を差し伸べるか否か思案してしまう愛美とは水と油ほどに違っている。
遼は、自分の力が及ばない時はすぐに取引を持ち掛けるからだ。勉強にせよ、何にせよ任せる人を選ぶ目を養っている。恐ろしく強かで、他人の目を引く事を自覚している。

「…菊丸と海堂の様子が妙だったが、大石はそちらで忙しいのだろうか。」

心ここに在らず、と言ったような2人。乾や不二から見れば、手塚も妙に映る。
恋患いとは自覚する事が難しいのだ。手塚は相談を聞くのも、行うのも苦手だから大石に負担を少なからず掛けている事を自覚している。
遼は見抜いて、悩みを言わせてしまう話術を持っているがあまり使わない。手塚は愛美に言えない事を、遼には容易く言ってしまうのだ。付き合いの長さも、助けているだろう。

「佐々木、頼む…明日、来てくれ…!」

いや直接俺に言えよ、と遼が聞いていたならツッコミを入れたであろう発言をして、手塚はノートを閉じた。
遼が絶対に触れない、日記。どんなに無防備に置いても、手を出さない手塚の聖域。

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