文句あんのか | ナノ
ひとりでできるから


彩菜の勧めもとい負傷している遼に傷を増やすなと国一に言われ、大人しく裁縫道具を借りて縫い物をしている遼。

「いつ見ても似合わないな。」

「見なきゃいいだろ。」

会話終了。彩菜は楽しげに笑っていた。

「遼さん、国光の顔見て?笑ってるわ。」

「は?…いやいつもの鉄仮面にしか見えねぇ。」

「遼さんだって楽しそうじゃない。」

「嫌いじゃねーな、チマチマした作業。やる奴いねぇから覚えたけど。」

「佐々木、母親に頼まないのか?」

「母親俺産んでソッコー男作ってどっか行ったらしいぜ。オヤジがバカ親になったのはその結果だろ。」

チクチク縫いながらさらりと言ってしまう遼。空気が重くなった。

「…すまない。」

「気にしてねぇよ。羨ましくないっつったら嘘だけどな。」

パチン、と糸を切って作業完了。しかし遼は不満げ。

「やっぱナイフで切られたらおじゃんだな。諦めるしかねぇや。」

血ィ付いてねぇ奇跡的な快挙だったのによー、と呟いて片付け始める遼。

「…佐々木。まさか先日の制服に付いていた黒いシミは…」

「血。俺んじゃねぇ。テニス部の先輩。いやはやいきなりラケットで殴りかかってきたから遼君ビックリだぜ。」

「…渡し守の佐々木とはお前だったのか。」

「渡し守?」

「三途の川を渡る時に舟を操ると言われている。」

「川は見せたかもしんねぇけど渡らせた記憶はねぇぞ?」

「佐々木の家紋が六文銭なら言う事無しだな。」

「真田幸村かよ。」

「刃物を持たせて戦わせたら勝ちそうだな。」

「何なんだその時代無視したドリームマッチ。刀振り回せってか。斬り方知らねえよ。」

ずず、とお茶を啜る遼。

「それ以前に銃刀法違反だな。」

「そんな連中ゴロゴロ転がってっけどな。」

「…知り合いにでもいるのか?」

「アホか。こないだ面に切り傷こさえただろ?俺より頭の悪いバカがぶっ放しやがった。」

どこから突っ込めばいいんだこの女。手塚はこめかみを押さえた。

「…佐々木には当面勝てる気がしない。」

「殴り合いで負ける予定はねぇぞ?」

にやぁ、と笑う遼。

「ギリギリ出席で成績普通がおかしいだろう。」

「テスト前に勉強するワケねぇだろ。役に立たねえって。受験もオヤジに言われてダメ元だったぜ?」

「…何の因果かやたらと助けられているな。」

「面見せただけで逃げ回るんだからな。オヤジ見たら腰抜かすぜ。」

「父親譲りの目つきの悪さか。」

「だろうな。母親の面は拝んでねぇし。」

んじゃ俺寝るー、と用意してもらった布団に潜り込む遼を手塚は何気なく見ていた。


母親を知らない佐々木。そして馴れ合いを好まないようだ。確かに強い。肉体も精神も凄まじい。その影響で1人を好む節がある。近寄りがたい雰囲気がそうさせているのだろうか?同情を極度に嫌う事はよく解った。佐々木が独り言を言う時は、話を逸らしたい時。猫のように丸くなって眠る佐々木は、弱肉強食の世界の住人。

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