文句あんのか | ナノ
震え上がる
愛美の目の前で起きた、野蛮極まりない喧嘩。1人の女子中学生を相手に、大の男が複数で切りかかる非日常的な光景。
珈琲屋に引きずり込まれた愛美はただただ震え上がっていた。
「いきなりで、運が悪かったね。お嬢さん。ホットミルクをどうぞ落ち着くよ。」
「あ、あんな人が何で好かれてるの!?」
「お嬢さんは、遼さんをよく知らないからだよ。さっき遼さんが連れていた、不二君。逃がしていたね。それがあの子の不器用な優しさなんだ。」
騒ぎに巻き込まれ、暴風を纏い敵を蹴散らす姿ばかりが噂となり、穏やかな姿を忘れられた。遼はそれを受け入れ、トリックスターとして振る舞い続けている。
遼を慕う、または近しくなりたい者は肌で理解するのだ。
「暴力なんて…。」
「悪かったな、コレが俺のやり方なんだよ朝比奈愛美さん。たろじぃ、上着置いてたか?後消毒とガーゼくれ。」
「ああ、最後の一枚はあったね。ちょっと待っていて。」
マスターが奥へと向かい、遼は座っている愛美を見た。
その目に、叫び声すらも上げられない。目つきの悪さに、輝きが言葉を失わせるのだ。そして、傷ついた体。
「…怖いだろ?俺に喧嘩売ってタダで済んだ奴はそういねぇ。」
「いた、痛く、ない、の…?」
遼は呆れたように見る。関東最強と名高い、百戦錬磨の喧嘩屋。夥しい傷跡に、生々しい傷。
月並みだが、愛美はそう思ったのだ。
「痛くねえ怪我があるもんか。慣れてもいてぇよ。歩けんならさっさと帰れ、手当てなんざ見ても楽しくねえだろ。」
しかし、愛美の腰は抜けていた。遼は無自覚だが、ある程度度胸が無ければ喧嘩をした後の姿は、とても恐ろしいものなのだ。度胸のある者は、感嘆と恐怖が入り混じり目が離せない。
「お待たせ、遼さん。あぁ、上着はもうダメだねぇ。」
「背中の消毒頼むな。」
マスターに背を向け、上着を脱いだ遼。キャミソールも切られていたが、マスターは慣れた手付きで消毒をする。
「スカートは大丈夫か。」
「またシャツや上着を置いていいからね。背中は終わったよ。」
「サンキュ。えーと、こっからだと20分か。ナァ子、送ってやるから家教えろよ。」
「あ、うん。ありがとう…。」
上着を着て、愛美を立ち上がらせた遼だが。腰が抜けているので片腕で担いだ。
「あの、マスターさん。…ホットミルク、ありがとうございました。」
「気を付けて帰るんだよ。」
穏やかに微笑んだマスターは、荒事に慣れている。だからこそ遼を心配するのだ。
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