文句あんのか | ナノ
印象的な


午後も問題なく、授業を受けていた遼。ただ、手塚に何か起きているとは気付いていた。
授業が終われば、女子制服で身軽に歩き出す遼は目立つ。誰よりも背の高い青学三年だからだ。

「佐々木さん、ちょっといいかな?」

「あ?どしたしゅうちゃん。今日休み?」

「うん、休み。お茶でもしながら話さない?」

「デートかよ。ま、いいぜ。美味い珈琲屋教えてやる。」

「それは嬉しいな。僕はデートでも構わないからね。」

冗談と解っていて、不二は笑顔を保っている。愛美が見ている事に気付かないまま。
2人が歩き出した先を、思わずつけてしまっていた。

「やっほーたろじぃ。久しぶりー。」

「久しぶりだね、遼さん。お隣は彼氏君かな?」

「彼氏に立候補したい不二です。はじめまして。」

また、冗談の応酬をしながら席に座る遼と不二。愛美も、おずおずと入った。
不安要素は排除したいのだ。

「おや、いらっしゃい。中学生のお客様は珍しいね。」

マスターが微笑みかけるが、遼と不二はそちらを見やった。穴場だと遼がよく知る珈琲屋だ、尾行したのだと簡単に解る。

「あ、ナァ子じゃん。この辺詳しいのか?」

「う、ううん。ただ、佐々木さんが入るのを見て興味で。」

「ふぅん…。マスターさん、オススメはありますか?」

別段興味も無さそうに相槌を打つと、不二はマスターに問いかけていた。遼が目立つ事は、日常茶飯事なのだから。

「今日はカプチーノだね、いいミルクを仕入れたから。遼さんはいつもの?」

「うん、しゅうちゃんは?」

「僕はオススメを。…本当にいい雰囲気だね、ここ。」

ゆっくりと不二は見渡し、遼へ微笑んだ。
畏怖、憧憬、親愛などを抱く遼にだから、惜しまない。賛美も心からだ。

「だろ?昼間はたろじぃの趣味入ってるからな。」

「遼さんのお陰で、お客様は増えているよ。お嬢さんは何を飲むかな?」

「あ…オススメを。初めて珈琲屋さんに来たので。」

マスターの合図で、遼は不二に手招きする。愛美はマスターが相手をするから、好きなだけ話しなさいと言う合図だったのだ。不二も頷いて、遼に近付く。

「…菊丸が、おかしいんだ。昨日から朝比奈さんの事ばかり話してて、気味が悪いよ。」

「普通に恋患いじゃね?部活に影響出たらみっちゃんが50周くらい走らせる。」

「それと、何で佐々木さんについて来たのかな。まさか、噂も知らないの?」

「当たり。俺、自惚れてたかもしんねぇな。」

不二と話している遼に、学校で睨んでいた愛美。疑いの色は、更に濃く深くなっていた。
甘い香りの愛美よりも、雷光のような遼に目は向かうのだから。

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