文句あんのか | ナノ
村八分


自分が主人公だと信じて疑わない愛美は、選ばれた者なのだと愛されて然るべきなのだと半ば暗示のように思い込んでいた。
確かに、愛美は比較的可愛らしい顔で化けて装う意味を持つ化粧も似合っている。中学生としては、背伸びをしすぎている感は否めない。

「ねぇ、手塚君。佐々木…さん?ってどんな人?」

「青学の問題児だ。」

「なら、みっちゃんって…?」

「佐々木が勝手に呼んでいるだけだ、二年以上止めろと言ったが聞かない。」

手塚にとって、それは事実。迷惑だったが、今となっては遼以外に言わせたくない呼び名だ。
どんなに愛美が魅力的でも、それだけは譲れない意志がある。遼は良くも悪くも、人の目を惹きつける天性の派手さがあるのだから。

「そう、なんだ…。佐々木さんと仲が悪いの?」

「腐れ縁だ。朝比奈、佐々木に関わるとロクな事にならない。」

昼休み、遼は食事が終わるなり片っ端から朝比奈愛美について調べるべく、乾とコンピューター室で過ごしている。
女には、逆ハーレム補正が利かない。愛美は内心歯噛みした。あんなにも男らしく、跡部と並べても遜色ないイケメンと思ったのだ。手塚を籠絡し、次は菊丸と不二。そんな計画まで立てていたのに。名前すら原作に無いクラスメートの女子、男子もモブとばかりに逆ハーレム計画から外されている。エゴと気付かずに。

「あ、メール。…朝比奈さん、あなた佐々木さんの事、知らないの?」

「ミーコ、それじゃダメだよ。関東最強の佐々木遼って言わなきゃさ。で、朝比奈さん知らない?名前は有名だよ。」

クラスメートの女子達が、愛美を囲み始めた。知らないなんて有り得ない!と青学のローカルルールのようなものだ。
青学でなくとも遼の名は、よく噂になるのだから。

「え、あ、ごめんなさい、知らないの…。」

「おかしいだろ、それ。佐々木ってニュースになる事山ほどしてるらしいのに。」

俯く愛美に、一見根暗そうだが学年三位以内を常に維持する男子が本から目を離し、いとも容易く言ってのけた。

「喧嘩があったら佐々木を疑えって埼玉の友達が言ってたし。」

「俺は去年の大喧嘩が新聞に載った挙げ句、本人からやったと聞いた。」

「何で手塚知ってんの!?すげーよ佐々木に聞けるなんて!」

愛美を余所に、入学式から今に至るまでの凄まじく暴力的な逸話の数々が教室で交わされた。
遼からメールをされた数人の男子が、愛美を冷静に観察している事に誰も気付いていなかった。
愛美は、王子様だけに愛される事を願ったのだから。

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