文句あんのか | ナノ
ならば競争だ
2日程学校を休み、久しぶりに登校した遼はその目を見覚えの無い顔に向けた。朝比奈愛美へと。
「おはよーみっちゃんノート貸してくれ。」
「…どの教科だ。」
「世界史と英語と数学。で、アレ誰?」
愛美もまた、精悍な顔つきをした背の高い女子制服を着る、クラスメートと思しき性別不詳に見惚れてしまっていた。
「昨日転入してきた、朝比奈だ。どうかしたのか?」
「香水くせぇ。放課後までにノート返すな。」
「次の授業は数学だ。」
「教科書借りてくる!!」
思い切り嫌そうな顔をしたと思えば、遼はすぐさま教室から出て行った。
いつもは学校に置きっぱなしなので、手塚も珍しいと感じてしまう程遼に慣れていた。
「サダ。数学貸してくれ。ついでに制服の予備。」
「佐々木が教科書を忘れる確率、10%。…裏がある確率、89%だ。」
遼はニヤリと笑い、乾に手招きした。そして、耳元に囁く。
「俺のクラスに転入してきた朝比奈って、誰だ。」
「…な!?」
聡い乾は、真意をすぐさま理解してしまった。
関東最強、興味を持った者はどんなに強固なプロテクトを使おうと暴かれる。その関東最強が、存在を知らない女子生徒とは異常だ。
「当たり。…絆されんなよ?」
「俺も調べよう。佐々木が知らない女子生徒、朝比奈愛美。面白いデータだ。」
「じゃ、借りてくな。どっちが先か、競争だ。俺が負けたら乾汁でも何でも飲んでやるよ。」
妖しい笑みを浮かべる遼に、乾も負けじと言い返す。敗北宣言を、情報獲得戦で聞けるかもしれないチャンスだ。
最強の名を欲しいままにしている遼に、正々堂々と挑める。
「俺が負けたら、お前に友人と呼ばせてやる。」
「うっわキッツー。絶対負けねえからな。」
当然、乾も負ける気はないと軽く拳を突き合ったのだった。
遼が男子制服を着て、教科書片手に戻ると朝比奈がとろけるような笑みで近づいて来た。
「はじめまして、佐々木君。私、朝比奈愛美。よろし」
「くしなくていい。ついでに、俺男じゃねぇ。コレ貸されてんだよ罰ゲームで。朝比奈だっけ?お前どこの中学?」
意気揚々と逆ハーレムを目指してトリップしてきた愛美は、しどろもどろに都内だと告げた。一人暮らしである事も、聞いていないのに言ってしまった。
「ふーん?珍しいな、普通ビビって話し掛けねえぞ。な、みっちゃん。」
「罰ゲーム定番だからな。で、チャイムは鳴ったぞ。」
慌てて、授業を受けるクラスメート達だった。一部の女子生徒は、違和感を拭いきれない。
悪名高き関東最強の名を、知らない都内の中学生。
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