文句あんのか | ナノ
歓迎会だよ豊臣軍
素手で秀吉と拳を交えた、兵卒が束になっても敵わなかったと言う事実から、遼は良くも悪くも蔑視されない立場。だが、今回はそれを少しばかり後悔したくなっていた。
「…なぁ三成。ここでいいのか?」
「知るか。半兵衛様のご意志だ。」
余計タチが悪いわ、と言いたくなる席順だったのである。
右に三成、左に官兵衛とは破格の扱いでしかないだろう。
「官兵衛、どうなんだ?」
「小生はしんっ!そこ!嬉しい。三成と刑部に挟まれたら、美味い酒も不味くなる。解るだろ?」
「暗よ、われは酒を呑まぬと知っておろ。遼にたんと呑ませようぞ。」
ああ、と頷きかけてふわりと浮かぶ大谷を見上げた。半兵衛と大谷は、付き合い自体少ないが秀吉の主催ならば顔を出す。
「俺、かなり呑むぞ?親父と酒の取り合いで殴り合ったぐれぇだし。」
「見目こそ美しい愛娘が口を開けば豪傑とは、父が哀れよの。」
ちっとも哀れんでいない大谷に、遼は呵々と笑い声を上げた。事実、遼が父を哀れんだ試しは無いのだ。
「黙れ、貴様ら。刑部も何を遊んでいる。」
「…ひゃい。」
みしっ、と音がしそうな程遼の横っ腹へ鞘が入った。帯や着物の分厚さを差し引いてもかなり痛そうだ。
遼だから、耐えられている可能性は高い。
「三成、丸腰の女子に鞘をぶつけたら気の毒だ。」
「…女子?誰がだ。コレは女子とは呼ばん。」
「実は俺も三成に賛成。似合わねえカッコだし。」
「似合っておるぞ、遼のそれは半兵衛殿の見立てだと聞いたが。」
軽く手を挙げた遼だが、鞘が思いっきり捻られ非常に痛い。家康め余計な事を、と舌打ちした。
「半兵衛様直々に、見立てをさせただと?」
「いやいや、俺村育ちだから良し悪しの勉強と小汚いカッコ辞めろって。痛い痛い!」
「確かに小汚い格好は暗で充分よな。緋牡丹とは女子らしいものを見立てられたようだ。」
「遼の振袖はとても似合うし美しいぞ!」
まだ呑んでもいないのに、賑やかに騒ぎ出した武将達を止めたのは半兵衛であった。
「そこまで。久々の宴で遼君と言う花もあるから、浮かれるなとは言わないけれど。秀吉が来るよ。」
「…花?」
「黙れ。」
姿勢正しく、規律に厳しい三成に倣うように皆が上座へと座る秀吉を平伏して送った。
「面を上げよ。久方ぶりの宴だ、各々楽しむが良い。遼、お前の面通しも兼ねておる。」
「はっ、有り難き幸せ。」
鷹揚に頷いた秀吉だが、末端の兵まで遼の名は広まっている。数える程度の武将が集まる天守は、全員顔見知りだ。
金吾は不在だが。
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