文句あんのか | ナノ
宴会準備だ豊臣軍


秀吉の提案で、宴を行うと決まった豊臣軍。名目は兵の労いだ。半兵衛もそれには賛同し、厨はてんてこ舞いの大忙し。

「おねーちゃん魚全部焼けたぞー。薪足りるか?」

遼と言うと、普段着として半兵衛から強要された袴姿のまま手伝っていた。一応自炊もしていたし、女子だからと入り浸っている。
遼の力は日常も充分役立つのだ。膳を5つは軽く持ち運ぶのだから。

「薪は大丈夫!次汁物を膳に!遼様はお着替え下さいませ!」

指示を出しながら、自分も作業を続ける女中。ある意味戦場だ。
遼が手伝っているのはまず有り得ない、あってはならない図。しかし遼は女中達から絶大なる人気を集め、本人が手伝うからと当たり前になりつつあった。

「へいへい。また追い付かなくなったら言えよ?」

薪割り、水くみ、火の番とやる事はそれこそごまんとある。
放置していれば必ず適当すぎる着物で宴に向かう、と半兵衛でなくとも考えるから、遼は指定された着物に着替えるべく自室に戻ったのだった。

「遼様のお召し物は何かしらね?」

「緑の黒髪に映える藤色もお似合いですものね。」

都雀ならぬ、女中達の合間を縫いながら交わされる噂話。最近の話題は遼の事が多い。
髪を伸ばして結えば美しいに違いない、遼を娶る男は誰だろう。いつの世も噂話は絶えない。

「…よし、これでいい。」

バサバサの髪を高価な椿油で撫でつけ、黒地に緋牡丹の一見女装以外の何物でもない姿。だが、口調と仕草と目つきの凶悪ささえ除けば、非常に似合う半兵衛の見立てだ。

「まぁ…ほんにお美しい限りで。化粧も要らぬ肌とは羨ましいですわ。」

女の目から見ても、贔屓目無しに美しい。細く白い項が黒の振袖に映える。
惜しむらくは、半兵衛が選んだので豊臣の象徴たる黒と赤だと言う事だ。遼は袴であれ振袖であれ、様々な色を着こなせるのだから。

「あの鼻曲がりそーな白粉やら紅やら、つけたかねぇよ。振袖だって動きにくいったらありゃしねぇ。」

「戦乙女も、人によりますようで。」

「だな。噂と半兵衛様の話しか聞いてねえけど。あ、厨の手伝い」

「なりませんっ!御髪もお顔も振袖も汚れてしまいます!」

こんな時の、女性の勢いに遼は勝とうとしない。村では大したものを着ていなかったが、やはり一張羅での作業は皆しないのだ。
遼は山ほど与えられ、どれが一番かなど気にしなくなっただけで。

「なら、宴に行くか。」

「はい、こちらで御座います。」

豹変、と言う言葉がよく似合う女中に、遼はこっそり溜め息を吐いた。
どこも女は変わらないと。

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