文句あんのか | ナノ
体は資本豊臣軍


鍛錬をしなければ体が鈍るから、と遼は鍛錬用の衣を借りたのだが。腹丸出しのものだった。

「スースーすんな…涼しいけど。」

籠手に具足は自前。サイズが合わないのだから仕方ないだろう。
稽古場に足を踏み入れるなり、休んでいた兵が鍛え上げられた体に固まった。

「…着方間違ったか?」

きょとんとして、遼は小首を傾げる。間違いようの無い衣なのだが、兵の態度が変だ。
遼はとりあえず場所を探そう、と見回してみたが一部の兵が睨みつけていた。遼が平民、加えて女なのに秀吉から取り立てられた事が気に入らない。

「おい、そこの。俺が気に食わねえんだろ?なら一本でも取ってみやがれ!」

「女風情が、叩きのめしてくれる!」

不敵な笑みに、いきり立った兵達。啖呵を派手に切った遼は、腕を上げず相手の動きを見ている。
構えなど我流の遼は滅多にしないのだ。

「はい一人目。」

一撃で吹っ飛んだ兵を唖然と見送った他の兵達。遼の真骨頂は蹴りにあるが、隙が多いのが欠点だから多用しない。更に兵を殺しかねないのだ。
味方を殺しては身も蓋もない。

「はい次!」

次から次へと挑む兵を伸して行く遼。中には腕があらぬ方向に曲がった者、立つ事すらままならぬ者もいる程だ。

「も、物の怪か…?」

「んな訳あるか。生まれ方は普通だったらしいぜ。鍛冶やってたが女風情に、こんな有り様か?」

数えるのも馬鹿らしい、死屍累々の兵達の中君臨するかのように立つ。…一応死んではいない。

「ね、ねぇ…君が、秀吉様が連れて来た平民の女なの…?」

「あ?…そうだけど。遼って名があっから。」

涙目で見上げてくる、鍋を背負った少年。…にしか遼には見えない。身の丈六尺二寸を超える遼だから、自然と見下ろすので怖い。
更に手合わせと言うより、一方的に殴っていたので目が鋼色に輝いてもいる。

「そ、そうなんだ…僕は小早川秀秋…ヒッ、睨まないでごめんなさいーっ!」

「誰に言ってんだお前。」

遼を睨む兵は居ないが、恐怖と畏敬の視線を一身に浴びている。遼は睨んですらいない。目つきの悪さは筋金入りなのだ。

「弱虫金吾に遼殿は恐ろしかろう。」

「あ、コレが半兵衛様の言ってた。…豊臣の兵として誇りとか矜持とかねぇのかコイツ。」

素晴らしく、慣れたような綺麗な土下座。成り上がりにも程がある平民の女である遼に向けて、必死にごめんなさいと繰り返す姿は呆れを越え哀れだ。
確かに怖い見た目だが。

「…ごめんなさい以外言えねぇのかてめぇ。」

情けない声で、延々と言い続ける金吾に段々腹が立ってきた。

「オイてめぇに聞いてんだよ。」

遼の蹴りを背中の鍋に受けて、見事に転がる。あまりにも躊躇しない蹴りに、兵が固まる程だ。
動いたら殺されそう、としか思えないのである。

「ひぇぇええ!!聞いてます、聞いてますぅ!」

「なら返事しろ。別にとって食いやしねえよ。」

僅かにへこんだ鍋。本気なら割りかねない。

「三成様のようだ…。」

「三成ぃ?一緒にすんなよ近寄った途端首斬られそうな奴じゃねーか。敵味方関係ないって感じに。」

それは遼の大いなる偏見だが、敵意を向けられっ放しの遼にはそう見える。
半兵衛からマンツーマン指導を受け、秀吉から認められた怪力と使い方。女らしさの欠片も見当たらない、粗野で野卑な振る舞い。所詮三成もお坊ちゃん育ちのようなもの。鍛冶を生業とし、周りは男ばかりで育った遼を理解し辛いのだ。

「み、三成君と仲が悪いの?」

「その一言で片付くか。ありゃ俺が気に入らねえだけだろ。壁引っ剥がして何回説教食らったか。」

身を守る為でも、洒落にならない被害。加えて口論と呼んでいいのか、果てしなく次元の低い言い争い。その後半兵衛から懇々と説教を受ける、それが日常の一部と化していた。
負けず嫌い2人揃えば大騒ぎ。

- 11 -


[*前] | [次#]
ページ:






メイン
トップへ