文句あんのか | ナノ
身形も重要豊臣軍


いい加減使い古された、遼の衣を見かねた秀吉と半兵衛。遼が繕いをしていてもやはり、年月により汚れもする。との事で、遼は採寸と反物選びを強要されていた。

「何で女物…?」

煌びやかな花や鳥の意匠、金襴緞子の帯。嫁入り前の娘にのみ許される振袖。

「六尺を越える女子は初めて拝見致しました。」

そりゃそうだろうな、と遼も言いたくなる。
今ですら数える程度しか、目線の合う男が居ない。動きやすい衣を好み、実家の仕事柄振袖など邪魔だ。

「遼君には…そうだね、牡丹かな。暗めの生地に白い牡丹は映える。」

「そもそも私に女物が似合うと…?」

結い上げられない短さの髪に、精悍な顔立ち。身長も相まって半兵衛より男性的だ。
鮮やかな色の反物は初めて見るので、色の似合う似合わないは解らないが一応見た目は自覚している。
絶対に似合わない。

「女子の正装だからね、一つは必要だ。」

「はぁ…。あれ。そういや俺着の身着のままだから金ねぇ。」

遼の故郷、大和は豊臣が支配しているので通貨は同じだ。だが村同士は基本的に物々交換が主流。普通持たない。
小さく呟いた遼に、半兵衛はにっこり笑いかけた。

「気にする事は無い。君はこれから豊臣に尽くすのだから手付け代わりだ。」

「…頑張ります。」

遼は思わず顔を強ばらせ、頷いた。遼の体に反物を当させて、次から次へと指示を出す半兵衛を眺めるばかりだ。袴を多めに頼んでいる事に、すぐ察した遼。

「半兵衛様!稽古場にて家康様と三成様が!」

「すぐ行く。遼君、君はちゃんと選びたまえ。」

「はい。」

何があったんだか、と部屋を出る半兵衛を見送って遼は袴の色を選び始めた。

「こちらは如何で?」

「目が痛くなりそうだ…。黄色はちょっと。」

山に咲く花程度はともかく大きすぎる。庶民的な色を選んでいるが、既に半兵衛が見越して明るいものを決めている。
こんなとこで先読みしなくとも、と遼は溜め息が止まらない。

「あ、着流しも一枚あるといいな。」

「竹中様より承った浅黄色が御座います。」

開き直って注文しようとしたのに。と思い切り出鼻を挫かれた。

「半兵衛様が決められた帯は?」

「白地に鶴の振袖向け、袴は紺で御座います。」

一生着ないんじゃ。と思いながらも仕方無く振袖を注文させられた。厚着を極端に嫌い、真冬も薄着を好む遼。真夏の暑さは天敵ですらある。
これで雷を操るのだから不思議だ。

「こんなもんか。あー疲れた。」

いそいそと反物を纏め帰った女達。その表情は大変嬉しげで、稼げるからか?と遼はぐったりしながら考える。稼ぎもそうだが、見目麗しい半兵衛に男と見紛う遼を眼福、と見ていたのが大いにある。
足音に気付き、障子へ気怠げに顔を向けた。

「遼君、終わったかい?」

「はい。疲れました。」

素直にぐったりと肯定する遼。だが足音で半兵衛だと区別出来るほど、慣れてきた事は半兵衛も知らない。気配に敏感だとは遼から教えたが。一番厄介なのは大谷である。御輿だから、足音が無いのだ。

「お茶でも飲もうか。僕も三成君達に説教をして疲れたよ。」

「…休まなくていいのですか?」

二人きりの部屋だが、具体的に病の事を言わない遼。それが半兵衛には好ましくもあり、聡い事が疎ましくもある。

「問題無いよ。誰にも言わず医者も呼ばない君には感謝している。」

「ならば私は何も知らず見てもおりません。」

そこまでしても、半兵衛は豊臣の天下を願い命を削り続ける。
遼は、純粋に秀吉が目指す世界を見たい。村からいきなり城に住み、カルチャーショックを受けた遼はもっと見たいものがある。力があるから、見れたと信じ秀吉に従うのだ。

「それでいい。僕の夢と、君の夢は近いが違うから豊臣に必要だ。」

茶が運ばれ、またダメ出しされる遼だった。

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