文句あんのか | ナノ
教育熱心な豊臣軍


半兵衛によって、目上の秀吉と半兵衛に対する言葉遣いや礼儀はしっかり覚えた遼。次は女子としての作法と行きたいが、遼の疲れっぷりを見た半兵衛は仕方無く家康に乗馬を習うよう言った。
遼には、見事な漆黒の毛並みを持つ青鹿毛を半兵衛が選んだ。

「でかっ。秀吉様の馬もすっげえな。」

「だろう?ワシはこれだ。遼、轡などは馬丁にやらせるぞ。」

兵の数も並々ならぬ豊臣軍は、馬小屋すら広大だ。定期的に新しい馬を仕入れたり、調教したりと半兵衛達は多忙を極める。
遼のようにいきなり武将とはならないが、足軽などは集めて鍛えるのである。

「なぁ家康。さっきから馬がツラ押し付けてくんだけど何これ。」

「懐かれたな。そいつは気が荒いと三成まで蹴り飛ばしかけた馬らしい。すごいじゃないか!」

「ふーん…頭撫でただけなのにな。」

家康に言われるまま、城から出て手綱の引き方を習う遼は、あっという間に暴れ馬と呼ばれていた馬を手懐けた。遼も驚いたが、家康も唖然としている。

「気持ちいいな。走るより楽だし。」

風に髪をなびかせ、遠くを眺める姿に家康は思わず見惚れた。老若男女問わず、魅了しかねない。強さもそうだが、自然と視線を集める雰囲気も。
豊臣の武将として大阪に居るのに、縛られている事を感じさせないのだ。指示に従順だが言われた範囲内で好き勝手しているだけ、とも言う。

「忠勝に比べると遅いが、忠勝にばかり乗っていると感覚を忘れるからな。」

「忠勝に乗る…?」

人に乗って馬より速いとはどういう事だ?と顔に出して遼は首を傾げた。妙に思って当たり前だ。遼は本田忠勝と会っていない。

「あぁ。ワシに昔から従ってくれている。忠勝に乗って飛ぶと気持ちいいぞ。それに忠勝は強い。」

「戦国最強、だっけ?半兵衛様に習った。秀吉様の最強の将だって。」

遼の言葉に、家康は苦笑を禁じ得ない。本当に、家康は本田忠勝を引き入れる為の飾りだと半兵衛に言われたも同然だ。
遼に悪意は無いし、知らない事を学んでいく姿勢は好ましい。

「あぁ、遼は本当に物覚えが早いな。羨ましいくらいだ。」

「まだまだやる事あるからな。最低限は覚えろってみんな言うし。それにしても本田忠勝に乗るか…やってみてぇな。」

それでも、遼はまだ豊臣に来て数日。吸収力はスパルタ教育をしている半兵衛も満足な速さだ。遼も必死について行くのだから、大した掘り出し物である。

「息抜きにはちょうどいいだろう。よし、ワシと競うぞ!南に真っ直ぐ行くと海だ。ワシが早く着いたら手合わせだ!」

「いいぜ、俺が勝ったら本田忠勝に乗せろ!」

勢い良く駆け出した2人。一応監視に付いていた忍びは慌ててついて行った。本田忠勝を乗り物扱いしている遼に、ツッコミを入れる人間は居なかった。
動いていると、遼は生き生きとして美しい。戦う姿はもっと美しいと、まだ誰も知らない。

「へへ、俺の勝ち!」

「参ったな、初めて馬に乗った遼に負けるなんて。筋が良すぎだ。」

「要点押さえれば動くのは簡単に覚えられっから。動かないのは苦手。」

ついでに、掃除も壊滅的だと知るのは遼の部屋担当の女中だけだ。今は何も無いが、布団の荒れ方が尋常ではない。畳んだ、と言うより丸めて隅に置いただけ。庶民生活中も、鍛治をしながら道具を無造作に置くので筋はいいが問題視されていた。商売道具なのだから大切にすべきだ。

「元親のようだな。」

「四国のか?西海の鬼とかからくりを作るとか。」

「そうだ。ワシの友でもある。城に幾つか、元親から奪ったからくりがある筈だぞ。」

戦車天君も、元親のからくり職人を呼びつけて作らせた品だ。遼は広大な城をまだ見終わっていない。

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