文句あんのか | ナノ
朝も元気な豊臣軍


翌朝。空が白み始める頃に起きた遼は、寝間着のまま上着を一枚肩に引っ掛けて女中から聞いた場所へと歩き出した。
眠気を払う為、真冬以外は頭から水を被るのが遼の習慣だ。

「ここか。手拭いも上着もあるしいいだろ。」

井戸から水を汲み上げ、頭から被る。遼は気がついていないが、寝間着は白。加えて整えてもいないから、透けるわ肌も露わだわとはしたない姿だ。ちゃんと人が滅多に近付かず、使わない井戸を聞き出してはいるが。
何度か被って、漸く目が覚めたと欠伸をする遼。しかし、足音に振り向いた。

「き、貴様…朝から何をしている!!」

「朝から怒鳴るな。水被ってただけだっつーの。あー眠い。」

前髪をかきあげ、三成を見やるが一度固まった。三成の視線が明らかに胸元へ注がれているからだ。
慌てて背を向け、濡れた着物を一応整えて上着を羽織る。

「…何か色々本当ごめん、三成。」

首だけで振り向き、視線がやや下の三成を見る。
遼は首が細く、色白だが三成よりは健康的な肌色だ。ぴったりと張り付いた着物が、遼の細さと女性の証を示している。

「…。」

拳をわなわなと震わせ、だんだん顔が赤く染まっていく三成。
遼はマズい、と半ば本能的に助けを探したいが人気は無い。絶対怒って怒鳴る。と確信していたのだ。自分もかなり恥ずかしいが、見せるつもりなど全く無かった。
寝起きはそこまで頭が回らない。

「貴様ァァァ!恥じらいと言う言葉を刃と共に刻みつけろォォォ!!」

「ぎゃー!斬りつけんな俺丸腰!お願い誰かコイツ止めてくれー!!」

桶を犠牲に、必死に逃げ回る遼。自分に非があるだけに、そう反撃が出来ないのもある。それが三成を余計に怒らせている事に気付ける程、三成を知らない。

「やれ三成、遼。如何した朝から。」

「説明するから三成止めてくれ大谷ー!」

「刑部!邪魔をするな!」

軽やかに壁を蹴りながら、三成の刃をかわす遼。大笑いをする大谷を見て、遼は確信した。
絶対面白がっている、と。

「ごめんってば!反省してるし今度から場所選ぶから!何で滅多に人が来ないって聞いてたのに三成が来んだよー!」

「知るか!貴様仮にも女ならば恥を知れ!!」

三成の刃があちこちを破壊して回るので、やかましい事この上ない。気付かない豊臣軍でも無いので、秀吉が駆けつけて一喝した。

「三成!遼!朝から何をしておる!」

「ひっ、秀吉様!?」

天の助けとばかりに、遼は動きを止めて秀吉を見上げながら膝をついた。三成も同様だ。

「何の騒ぎだ。」

「…申し訳御座いません私が原因に御座います。」

深々と頭を垂れた遼。髪の毛から水が落ち、水によって色の濃くなった上着が証明に近い。三成は呼吸を整える事に忙しい。

「秀吉、何の騒ぎだい?…遼君と三成君か。遼君、説明を。」

1からしっかり説明した遼に、心底呆れた溜め息を吐く一同。
一応遼なりの配慮もあったし、女中から聞き出す事は悪くない。下働きは詳しいからだ。

「確かにここは牢の近くだから近寄る者も多くないだろうね。」

「上着も羽織ったとなれば少なからず配慮もあったのだな。」

三成が水音に気付かなければ、起きなかった騒ぎ。遼が勢い良く水を被った所為で三成は確認に向かい、とんでもないものを見てしまう羽目になったのだ。
遼が原因と自己申告したのも頷けるし、気付いた三成を一概に責めるのも妙だ。

「朝は近付かないよう、通達するか。寝ぼけられたままでも困るからね。」

「申し訳御座いません。」

「遼君も三成君もどちらが一概に悪い訳じゃ無いからね。…また騒ぎを起こさなければいい。」

その自信が消滅しかけている遼には、少々酷な話ではある。
村では、泉が近くにあり巫女と遼以外入らない場所だったのだ。

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