文句あんのか | ナノ
はじめまして豊臣軍


着慣れた衣服と、村長自ら打った具足と籠手。それだけが遼の荷物だった。
質素な生活を送る平民らしくはあるが、遼の大きさに合わせてあるオーダーメイドの一品である。

「…ひれぇなぁ、俺一人で使っていいのか?」

「秀吉様が直々に選ばれた遼殿だからな、その内色々増えるさ。」

武将としては当たり前の広さだが、つい昨日まで村人その1くらいの扱いで生きてきた。不思議に思ってもおかしくはない。

「やる事山ほどありそー。ま、頑張るか。」

「半兵衛様は厳しい方だが見込みの無い者に教える事は無い。さて、秀吉様のお部屋に向かうか。」

「それはそれで緊張すんだけど。あ、会わせたい人ってどんな人?」

殆ど何もない遼の自室から出て、兵士から三成、家康に黒田、大谷の説明を受ける遼。更に家康の腹心、本田忠勝の話を聞いてようやく合点した、と頷く。

「…帰りたくなってきた。半兵衛様だけでも口やかましそうなのに。」

「そう言うな。遼殿は鍛治と賊退治ばかりしていたから、荒くれ者と言われるだろうな。」

「そりゃそうだけど。」

自分よりも年上だが、背の低い兵士に慰めのように肩を叩かれ、秀吉の自室へと入らされた。

「思ったより早かったね。…どうかしたかい?」

「いえ…。血の臭いが濃くて。」

包帯を巻いた家康と三成。嗅覚が優れた遼には少々辛いものがある。独特の臭いを放つ大谷よりも、血の臭いが勝ったのだ。

「ふふ、女子らしいね。彼女が遼君だ。秀吉と2刻戦ったそうだよ。」

「女子が秀吉公とか!?ワシは家康、徳川家康だ。武器は何を使うのだ?」

余計な事は迂闊には言えない、と察知した遼。口汚さもそうだが、礼儀のれの字も解っていないのである。半兵衛の視線が許さない、というのもあるが。

「遼君は、素手で秀吉と戦ったよ。秀吉も鎧と籠手は外したそうだ。」

存外、馬鹿ではないらしいと遼への評価を改めながら半兵衛が語る。

「見目は女子には見えんな…だが力量は確かか。小生は黒田官兵衛、官兵衛で構わんよ遼。」

「われは大谷、大谷吉継。主は聡いようだな。」

腹立つなこの野郎。と遼は痺れかけた足を何とかしたいなどと思いつつ、各人に見様見真似の会釈をする。三成は、遼を睨んでいた。秀吉と戦った、平民がいきなりの出世なのだ。面白くはないだろう。
加えて見た目は三成と同じように華奢な男。あんな細腕で秀吉と戦うなど想像も出来ないが、半兵衛と秀吉の発言は真実である。

「…三成君、信じられない気持ちは解るけど彼女は本当に秀吉と戦った。」

「三成、遼に名乗らぬか。この程度で怯む遼では無い。」

秀吉の圧倒的な視線すら、真っ向から見返し存在感は秀吉に次ぐ。三成の視線にも変わらぬ態度で、可愛げなど見当たらない。

「…石田三成だ。何故秀吉様に刃向かった。」

「は?」

何がどうしてそうなんだよ?と言いそうになった。刃向かうも何も、後ろ盾はおろか利益などどこを探せばいいのやら。
遼は何とか言わずに済んだが、答えに困る質問だ。

「我が手合わせを命じた、それだけだ。」

「噂だから話半分だったけれど、遼君の力は秀吉の役に立つ。磨けば磨くだけ、強くなるよ。」

岩をも砕く拳に、大の男を投げ飛ばす。女だとは思わなかったが、名を考えれば不思議ではない。今の今まで、小さな村で生きていた事が勿体無い程だ。
半兵衛は穏やかに笑いながら語った。

「…遼、とか言ったか。秀吉様を裏切れば、私が地の果てまで追い掛けてでも斬滅してやる。」

だからどうしてそうなんだよ?と三成に思い切りツッコミたくなった遼。

「後、今は留守にしているけれど小早川秀秋、と言う子がいるよ。皆は金吾と呼ぶね。」

「そうですか。」

もう終わったし足痺れたから部屋に戻りたい。と遼は哀愁を漂わせた。

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