文句あんのか | ナノ
お家に帰りたい


デパ地下の上着を羽織るには…袖が短すぎた。肩に引っ掛けて誤魔化す。元々あって無いような胸だし、困りゃしねぇ。寒いだけ。

「昼飯前で助かった。多少乾くだろ。」

溜め息混じりに呟いて、下駄を鳴らしながら家路につけたら良かった。…記憶が正しければ、松平片栗虎。警察のトップだったか。将軍のお気に入りだったっけか?栗子さん…アンタの親父さんか。

「松平片栗虎殿とお見受けする。私は佐々木遼、しがない14の小娘で御座います。この度は大変ご迷惑をおかけしたようで、申し訳御座いません。」

「小娘ぇ?テメェ、女を誑かす趣味でもあんのかぁ?よりによってウチの可愛い娘を。」

「断じて、私にそちらの趣味は無いと誓えます。お嬢様とも、意図して近付いた事は御座いませんし、何より松平様のご令嬢とはつゆ知らず。お誘いを断るも失礼になります故、この度の騒ぎに至り心よりお詫び申し上げます。なにぶん、このような姿ですので間違われてしまいますが…14の小娘に、女装と言われるのは少々辛いものが御座いまして。」

すっげえ久しぶりな超丁寧語。合ってるか不安。このぐらいへりくだらないと納得しないだろ、お偉い人ってのは。

「佐々木遼…。その誠実な態度はオジサン嫌いじゃあねぇ。栗子にも丁寧だったしなぁ。」

「お褒めの言葉、恐縮に御座います。して、私に何か御用が。栗子様には近付かぬよう、気を配る所存に御座います。」

「その目だ。俺達の尾行を察知した瞬間の目。遼、荒事に慣れてんな?」

「ご慧眼、お見事に御座います。殺しはしておりませんが、殴り合いはしばしば御座いました。」

距離はともかく、デカい猫の持続時間がピンチ。30分続けば頑張った俺!ってなんだけど。一般人でいさせてくれ。

「ちらほら聞いてはいる。電柱を蹴りで折った上に振り回す馬鹿力。春雨相手に左腕やられただけ。女なのが惜しい。」

性別間違って生まれたよ。解ってるって。…まぁ、今回は音沙汰なし。栗子さんが説明してくれたらしい。お礼は…無理だな。出来るだけ会わない努力をするつもりだ。暫くは…真選組の監視下。普通だ。こんな猛獣を野放しにしておくバカは少ない。外出時に見張りがいるだけだ。弱みを握る機会は、あんま無い。根っこが深すぎて、手が届かないだろうな。

「…さがるん、疲れたろ。コーヒーぐらい淹れてやるよ。」

「佐々木さんも、災難でしたね。副長が騒いでましたよ。」

「なんで素人が?」

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