文句あんのか | ナノ
似た者夫婦


黒く、夕日に輝く髪はセットしたがすっかり見る影もなくバサバサになり、堂々と足を組む姿は絵になる。しかし、その視線の先にいるスクアーロは蛇に睨まれた蛙だ。それも特大の。

「…で、何がどうなってこんな超ド級に迷惑になる事が見え見えの場所で派手な喧嘩売ろうとした?」

「遼が、どいつかと浮気するんじゃないかって思っただけだぁ…。」

最早威厳もプライドも、踏み潰されたスクアーロ。遼の目は変わらず冷ややかなままで、キレる前ではないのだが指輪を投げ捨てられる可能性はある。

「平安時代ぐらいにムクドリには口説かれてたけどな、マグロは無いだろ。昔のイメージまんまなんだぞ?常識で考えろ。」

その常識を悉く破砕してきたのはどこのどいつで、常識とか言える口か。そう思ってしまうスクアーロだが賢明な事に言わなかった。爆発寸前の遼を刺激したらとんでもない事になる。その遼を嫁にしたのだから、反論は出来ない。

「それにな、俺の身分はお前の嫁で紙に書く経歴じゃ善良な一般人なんだぞ?日本行ってきます、で済む事をボンゴレ本部行ってきます、とわざわざ言ってやっただろうが。後ろ暗い事やるならもうちょい頭捻るだろ。」

いちいちごもっともな発言なのだが、言っている遼に問題がある。ちょっと調べれば、遼の名前はあっさり出て来る。世間一般では男扱いだから、遼本人と断定されないだけだ。

「まぁ…そうなるなぁ。」

「だろ。」

盛大な夫婦喧嘩に発展する事が、不思議に思える遼。隠蔽工作なら伝手でなんとでもなる。あまり進んでやりたくはないし、かなりの意地っ張りだから洗いざらい言わない。2人の溜め息―意味合いは全然違うが―同時に吐かれた。

「何も、無かったんだよなぁ?」

「あってたまるか。」

クドい、と言わんばかりに吐き捨てる遼だが、そんじょそこらの男など尻尾を巻いて逃げ出す女傑だ。

「…良かった。」

隣に座っていたスクアーロは、遼を抱き締めた。そしてふと気付く。

「…胸、またデカくなったかぁ?」

「出産したんだ、当たり前だろ。」

言っている事とやっている事が、見事なぐらいに食い違っている。音声無しなら文句なしのいちゃつき具合なのだが。

「…暑い。」

「もうちょっと。」

肩に顔を埋めたスクアーロの髪を、指で梳く遼。チェーザレが空腹を訴え、食事にするまで続いたのだから惚れた弱みというものは厄介なものだ。

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