文句あんのか | ナノ
当事者は話せない


何気なく、本当に気紛れで遼はテニスコートへ向かい練習を見ていた。

「…佐々木遼…あんな化け物がテニスなんてしたら…!」

三年生だろうが教師だろうが、病院送りにしている現状では遼を恐れるのも当たり前だ。

「やぁ、佐々木さん。テニスに興味があるの?」

勇気を出して笑顔を浮かべた大和が話し掛けた。

「んー、興味っつーか予備知識が必要になったから試しに見てるだけだな。」

「テメェ!何大和部長にタメ口利いてんだ一年だろ!敬え!」

背筋に冷や汗どころか、身も凍るような瞳で、遼は目線が大して変わらない先輩を見た。睨んではいない。手塚を含む一年達は、心の中で先輩に合掌状態だ。

「わりぃな、俺一年生だからむずかしー日本語分かんねえ。」

「ナメた口利くな!」

血の気が多い先輩は、遼へ殴りかかった。顔面を狙った筈が、ガードされていた事に気付いた瞬間、遼に蹴り飛ばされていた。

「先輩ぃ〜。聞こえなかったからさ、もっかい言ってくんねぇか?」

「佐々木…!」

仲間意識の強いメンバーが遼を睨むが、威圧感と存在感はピカイチの遼に気圧されている。

「下級生の女相手に寄ってたかって、バカだな。」

にぃ、と口だけで笑った遼の目はギラギラと輝き、見た者全てに恐怖を植え付ける。

「上級生ナメんな!」

次々に殴りかかる先輩方を一撃では気絶させず、ボロボロにしていく遼に恐怖を抱き、逃げ出す者がいた。見逃す筈がない。

「逃げんな負け犬がぁぁぁぁ!!」

轟音と共に、テニスコートに張り巡らされたフェンスが、一部引きちぎられるようにして投げられた。何人も下敷きになっているが、奇跡的に致命傷には至っていない。

「試合、終了ってか?根性ねぇなぁ、もっと遊ぼうぜ先輩。殺し合いみたいな楽しいヤツ。」

沈黙がテニスコート周辺に降りたが、即座に対応したのは手塚だった。

「救急車を呼んで下さい!佐々木はもう手出ししません!」

「いい子だなぁ、みっちゃん。あ、やまとん。修理費請求してもいいからな。」

もう練習にならない、と判断した大和は打ち切らせ、遼は悠々と立ち去った。

「あれが、佐々木遼か…。恐ろしい、な。」

フェンスを取り付けられた後も、修理費を請求出来なかった。当事者しか知らない、テニス部の黒歴史。その1ページに、遼の名は恐怖と共に刻みつけられている。見た者は忘れない、忘れられない鮮烈な暴力。選手生命は断たれなかったがその年、加害者にして被害者は試合に出られなかったのだった。

- 25 -


[*前] | [次#]
ページ:






メイン
トップへ