文句あんのか | ナノ
親子水入らず


夜泣きをしなくなったチェーザレに、やっと眠れるとソファへ倒れた遼。よく飲む、笑う、泣く、寝ると赤ちゃんの仕事はきっちりこなしているが、母親は大変なのだ。

「遼。寝るならベッド行けぇ。風邪ひくぞぉ。」

「るっせぇスペルビ…寝かせろ。」

一昼夜ほぼ付きっきりで世話をしていたので、頭が回っていないようだ。スクアーロは実に現金な事に、名を久々に呼ばれた喜びを噛みしめていたが。戦闘はともかく、相手は赤ん坊。蹴散らしてはいおしまい、と言う訳にもいかない。

「お休み。」

スクアーロの言葉を聞く事もなく、完全に疲れ果てて爆睡を始めていた遼をスクアーロは抱えてベッドに寝かせた。かなり、重い筈だが腐っても評判最悪でも、ヴァリアー幹部にしてナンバー2の座を未だにキープしているのだから、持ち運べなかったと言うのは沽券に関わる。

「…体重落ちたかぁ?」

首を傾げて遼を見つめるスクアーロ。持ち上げる事は数える程度だが、大した面の皮の厚さだ。寝ているとはいえ、成人女性に向かって堂々と言えるセリフではない。まじまじと見ていたが、2時間もすれば敵意を放ち起き上がる。その間だけでも遼の無防備な寝顔を見ていたい、ちょっとしたエゴにスクアーロは逆らえなかった。

「…チェーザレも遼も、見とくからなぁ。ゆっくり寝てくれぇ。」

額に口付けを落とし、愛しげに遼の頬を撫でる。薄く傷痕のある、きめ細かく柔らかな感触を楽しんでいるのだ。昨日の事のように思える遼からの言葉。生涯を懸けて償うと決めた罪。憎み抜かれてもおかしくなかった上に、チェーザレは孤児院に送られかねない事態にまで発展した事を心から悔やんでいるのに、言えない。古傷を抉った事を詫びて、また蒸し返したくはないからだ。こうして自分の子供を疲れ果てるまで見ていてくれている、それだけでも充分有り難い事なのだから。

「信じてもらえるまで、何度でも誓う。そうするしかねぇからなぁ。」

ベタベタと触ると起こしてしまうし、蹴り出される可能性が高いのでスクアーロは立ち上がった。が、シーツを握る遼の指に髪が混じっていて、動けなくなってしまった。

「…遼、こんな癖あったかぁ?」

疲労困憊の遼を見るのは初めてではないが、こんな癖は無かったとスクアーロは記憶している。それもその筈、騒動の最中に無意識で遼はシーツを握るようになったのだ。慣れ親しんだ血の臭いに反応しているだけだ。

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