文句あんのか | ナノ
情けないくらいに


ナイフの雨を抜ければ、遼がいる。その一心でスクアーロは剣を振り回しナイフを弾いていく。背後からナイフが来ない分、数える暇もない大量のナイフが降り注ぐ。雨が止めば、心底嫌そうな顔をした最愛の遼が立っていた。何本か掠ったが、致命傷にはなっていない。

「…会いたかったぁ。」

「そ。ミッションコンプしたな。」

ふい、と背を向けてソファへ歩き読みかけの本を座って読み始める。その横にスクアーロは座り、伸びた遼の髪を指で梳く。パターンは色々あるが、会う度にバイオレンスなのは変わらない。

「…遼の傍が落ち着く。」

黙殺され、一定のリズムでページを捲る音だけが支配する空間。壊れ物でも触るかのように、スクアーロは遼の腹に手を当てた。気性の激しい子供のようで、起きていればよく蹴ってくるのだ。

「動いた…生きてるんだなぁ…遼と俺の子供。」

「…お前何がしてぇんだよ?」

座っていれば目線が変わらない。鋭い目で見据えられスクアーロは薄く笑った。目を向けられただけでも嬉しいからだ。

「やり直す、機会を下さい。もう集まりには顔は出してねえ。次、遼を失うのは死ぬ時だけだぁ。」

未だに慣れないイタリア人の口説き文句。中性的な美貌に目の眩んだ男達を、完膚なきまでに吹っ飛ばしてきたが…スクアーロに言われるとどうもむず痒い。うっすらと赤くなる遼の肌に触れるスクアーロ。

「…許せねぇのは変わらねえし、すぐに信じれねえ。それでも、か?」

見据える遼の目は鋭いが、戸惑いもある。拒絶し続けて、そんな虫のいい事があるワケが無いと言わんばかりだ。

「それでも、だぁ。遼は顔が綺麗なだけじゃねぇ。強くて、怖がりだからなぁ。次は無い。だから、やり直す時間を下さい。誰よりも何よりも、愛してる。」

毛足の長いカーペットに跪き、遼の手を握り締めて見上げる。深入りしない代わりに深入りさせなかった、その弱さをスクアーロが暴いた。そして、無防備な心を傷付けた。

「…そんじゃ、ポスト投げからやり直すか?」

騒動が始まって以来、遼は初めてスクアーロに柔らかく笑いかけた。ずっと見たかったその笑顔に、スクアーロは抱き締めて首に顔を埋めた。愛しくて、嬉しくて仕方がない。見てみぬフリをしてくれていたのに何度も裏切って、それでもやり直す機会をくれた。逆の立場になってみろ、と言われた事の意味が、漸く解ったのだ。遼の最初で最後の恋にしたい。スクアーロは素直にそう思った。

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