文句あんのか | ナノ
可哀想通り越した


スクアーロは帰る度に、遼の部屋を訪れる。しかし敷地に入った途端、ピリピリと敵意が向けられ生きた心地がしなかった。

「…遼。帰ったぞぉ。」

入ろうものならナイフの雨がお出迎え。因果応報、自業自得とは言えここまで拒否されると、へこたれそうになる。だから扉の前で帰還を告げる。警戒態勢を解かせた努力は、水の泡となったのだ。

「そ。んで?」

最愛の遼から放たれる言葉は恐ろしく冷たく、素っ気ない。

「そんだけだぁ。」

複雑怪奇な乙女心が解らないスクアーロ。遼とスクアーロの部屋は遠く、近寄ろうとするだけで敵意が強くなる。それを和らげる事が出来るのはスクアーロ以外に居ないのだが、ヴァリアー幹部と同等以上に戦える遼を本気で怒らせた。そしてスクアーロは、その手の事に詳しい知り合いがいない。八方ふさがりだ。

「…はぁ。」

遼の手にあった指輪は、肌身離さずチェーンに通している。十年前の、血塗れになりながら戦っていた遼の記録映像は、スクアーロだけが持っている。何が償いになるのか、全く見当がつかない。幹部達にもバカ呼ばわりされ、頭使えバカ!と突き放された。

「足りねぇ…。」

妊娠8ヶ月、少しだけお腹の出た遼を抱き締めたくて仕方がないのに、拒まれている。それが辛いスクアーロだが自分勝手、と言われて当たり前だ。遼もまた苦痛に晒されたのだから。ルッスなど、自腹でウキウキとベビールームを作って、我が子を待つかのように楽しそうにしている。

「どうすりゃいいんだぁ!?」

部屋に戻り、かつて遼が愛用していたソファに座り頭を抱える。よく考えなくとも、遼は色恋に疎いまま初恋で結婚までした日本人なのだ。即ち、相変わらずストレートな愛情表現が凄まじく苦手。女だが男扱いされ、誰かを恋愛対象として見なかった過去がある。唯一見たのがスクアーロで裏切られた。戻ってきた時点で悟るべきだった。やり直す機会があるのだと。

「…遼…。」

会いたい。触れたい。そう思うのは愛しいからで、自分すら裏切った。同じ女を相手にした訳ではないが、そういう所で潔癖な遼が許す筈も無い。もう一度口説き落とすぐらいの気概が無ければ、遼の心は離れていく一方なのだがお互いに意地っ張りな性格。恋愛に関しては草食の遼と、フラフラしていたスクアーロでは経験値自体が違う。その事に気付かないスクアーロがバカ呼ばわりされるのは至極当然。

「…もっかい、会いに行くかぁ。」

ナイフの雨が大歓迎したのは言うまでもない。

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