文句あんのか | ナノ
黒鳩
遼は特別、学校に執着は無い。降りかかった火の粉は暴風で払う。
「めんどくせーな…この手のバカが考える事なんざすぐわかんだ。」
切り刻まれた上靴を見て遼は不快そうに眉根を寄せ、携帯をいじり始めた。三年の女子が主犯。黒幕はいない。遼の恐ろしさを知らないとこうなる。
「どうしたんだよ先輩ぃ。俺にふっかけたのは先輩方だろぉ?俺は穏便にコトを済まそうってしてやってんだから感謝してくれや。」
倒れ伏し、血を流す女子の群れ。あぶり出すのに手間はかかった。
「どこが、おんび…」
「由緒正しき神聖な学校で先輩が後輩を気に入らないからとイジメ…警察沙汰になったら先輩方人生終わりだよな。しかも俺だけじゃなくて他にも被害者ちゃんいるし。」
クックックッと笑う遼に本能的な恐怖を覚える。
「知って…」
「底が浅ぇな。悪質な犯罪者ってぇのは頭も良くて勉強熱心で根気が無きゃ出来ねぇんだよ。フツーしら切るとこだろ?」
その言葉に顔面蒼白になる先輩方。
「俺はさ、こうやって先輩方が大人しくさえなりゃ文句ねぇから。」
急所はワザと狙わなかった事すら、先輩方には解っていないようだ。
「…お願い…言わないで…!」
足にすがりついた1人を振り払う遼の目は恐ろしく冷ややかだ。
「ホントワンパターンだよなぁ。人に頼む時の態度とかこのガッコ習わねえんだな。」
頭が良ければ許される、などと遼は微塵も考えていない。力が無ければ、悪知恵の働く方が勝つ世界。遼は底意地の悪さにかけては、不名誉だがトップクラス。
「佐々木さん…お願いします…。」
「そんで俺に何のメリットがあんのか聞かせてもらえますかね?」
目を細めて土下座するリーダー格の女子に言い放つ。当然、言葉も出ない。
「世の中義理人情でやってけるような生っちょろいモンじゃねぇってこった。」
救急車ぐらい呼べるだろと言い残し、遼が向かうは理事長室。以来、遼に対して女子は恐れるようになったのだ。その先輩方は、女子の間では目を付けられたら終わりだと、言われていたのだから。厳重注意をされて、その先輩方はなりを潜め卒業していった。
「使える情報は余すところ無く、ちらつかせれば大概動揺すんだ。」
遼の笑い声が中等部に響きそうな逸話の一つ。赤い桜と呼ばれる入学式の事件と並ぶ、後に黒鳩と呼ばれる表沙汰にはならなかった事件。遼は宣言通り、穏便に事を済ませたのだ。
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