文句あんのか | ナノ
非常に強い台風


翌日も、その翌日も遼は相談と久々の顔合わせに夜な夜な外出した。幅広い知人達に、先達としての意見を求めたのだ。スクアーロはただ、見ている事しか許されなかった。

「…結論は、そういう事だよな。」

スクアーロの心変わりを受け入れ、諦める。期待してはいけなかった、と学習するに値する行動の数々。解りきっていたと思っていた事が、立証された。

「ゴメンな、ろくでもない母親で。」

弱々しく腹部を撫でる遼の手は震えていた。今でも鮮やかに蘇る、告白を受け入れた事を悔やむ。軽口を叩けた頃には戻れない。生ぬるいビル風が、嘆くように遼には聞こえた。

「尾けてんのは解ってる。…ヴァリアー随一の剣士、スペルビ・スクアーロ。腹決まったぜ。」

「…遼…?」

ビルから飛び降りたスクアーロは戸惑ったように、遼をジッと見つめた。ヴァリアーに居た時よりも、鋭く氷のように冷ややかな声音が遼の唇から落ちる。

「ままごと遊びは終わりにしようぜ。懇ろになった女と楽しく遊んどけ。」

全てを、無かった事には出来なくとも時間が癒す。子育てをしながら、薄れゆく記憶に愛した人が居た事を忘れない。その子供を育て上げ、生きると遼は決めたのだ。

「…遼。違う、俺は遼を壊したくなかった。子供を育てたかった。」

「過去形、だろ?俺は心が狭いからな、お前の幸せ願える程出来た大人じゃねぇんだ。…さよなら。」

短い間でも、愛したのは本当。小さく呟いて遼は街を歩き出す。オフィス街を静かに歩く遼は、涙を流しながら嗚咽を堪えた。幼い頃母親が欲しい、と父親に泣きながらねだった。その逆を遼は選んだ。ありがちはありふれているから、そう言われる。覚悟はしていたのに、体とは違う激痛に耐えていた。

「遼!」

駆け出したスクアーロを振り切る為に、遼は頭に叩き込んだ地図を使って駆け抜けていく。しかし、涙の跡が行き先を雄弁に語っていた。自宅。並盛の地は今踏めない。逃げだと解っていても、恋しくなる。自宅へ戻り、厳重に鍵を掛けてズルズルとへたり込んだ。

「…野郎に好かれる可愛い性格じゃねぇんだ。解ってただろ。子供1人、守れねぇワケじゃねぇ。…これでいいんだ。」

自分に言い聞かせるように呟く。今はただ、仕事を探して身の安定を図る。それが最優先課題だとパソコンを起動させた。夥しい情報から真偽を見極め、また別の視点から見る。

「…迂闊だった。」

ザンザス御自ら来日。

- 202 -


[*前] | [次#]
ページ:






メイン
トップへ