文句あんのか | ナノ
幽けき月に誓い
てんやわんやのヴァリアーとスクアーロ。しかし遼は相談を続けている。
「遼はその旦那、好きだけど裏切りは許せない。旦那は上司をダシに言い続けてる。…再犯は充分有り得るケースだな。」
「だよなー。法律には明るくねぇけどそーゆーの何回か見たし。止めて欲しかったとか超ワガママに聞こえるからな。」
総監は大きな声で盛大に笑った。2人してデカい子供のまま、結婚したとしか思えなかったのだ。
「言い訳の常套手段だな、遼も旦那も大したモンだ。旦那は遼を甘く見てたし遼は旦那を信じたかった、でも遼の中に入り込めた偉業と、命知らず加減に乾杯したいぐらいだ。」
コーヒーを月に向けて掲げる総監に、スラリとした足を組んで呆れたように見る遼は疚しい関係に見えないし、そんな事は無い。
「結婚前の悪事バラすぞ。こっちは女の人生かかってんだ。満月か…金色夜叉みたく今月今夜のこの月を俺の涙で曇らせよう、とか合いそうな感じ。」
「ありゃ逆だ。女に裏切られた男の話だ。」
「知ってる。似合うって話だからな。…何をしてくれりゃ許せるんだろ。」
目を伏せて憂い顔の遼は、月明かりに儚く掻き消えそうな風情だ。
「そりゃ自分で考えなきゃいけない事だ。産みたいんだろ?その子供に恥じないケジメつけなきゃ。」
「うん…。好きだから。あいつも、子供も。だから許せない。俺にはこうして話聞いてくれるお偉いさんとか居る。十年経っても俺の名前は日本に残る不敗神話になってる。」
ポタリ、と俯いた遼の目から涙が落ちる。欲しかったものが、砂のように滑り落ちる感覚を痛感しているのだ。当たり前のように、周囲が持っていたものを持たず持たないものを持ち、少し違っていても手に入れかけた。
「あぁ、遼は関東最強として俺のガキも憧れるスーパーヒーローだ。かなり俺達も世話になったし後片付けもさせられた。…美人になったよなぁ。」
「恋は女を綺麗にするってアレ?」
「それもあんだろうな。いい女だってのに何でまた浮気なんかするのか。美人が居れば缶コーヒーも極上のコーヒーになる。しかも腹には自分の子供、最高だと思うけどな。」
「さぁな…銀髪か黒髪か楽しみにはしてる。」
「銀か。月夜には綺麗だろうな。」
「ん。…寝ないと障るからな、家に帰る。また暇出来たら話付き合ってくれ。関東最強の最初で最後の、利害絡まないワガママ。」
「あぁ、ジジイで良けりゃ幾らでも。…強くなったんだな。」
ひらひらと手を振って遼は自宅に歩き出した。
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