文句あんのか | ナノ
鉄輪の如く


招き入れた途端、遼はスクアーロに抱き締められた。慣れ親しんだ血の臭いに包まれ、涙が落ちそうになる遼。スクアーロも、遼の匂いに安堵した。

「…受験生の敵。なんの真似だ。」

「会いたかった。それだけだぁ。」

心とは裏腹に、冷たい拒絶の言葉。しかしスクアーロは離さない。永遠に続けばいい、と2人共思う無言で過ぎる時間を経て、遼がまた口を開いた。

「…暑いから離れろ。」

「ゴメン。何回言っても言い足りないぐれぇ、悪かったぁ。」

「どう、信じろと?一度や二度じゃねぇ。何回も香水の甘ったるい臭いさせてたよなぁ?」

嘲笑うように遼はスクアーロを振り払った。スクアーロは愕然としている。

「…知って…?」

「ほぼ無臭の部屋に寝泊まりしてたんだ。血と香水じゃ全く臭いが違う。俺の母親と似たような真似しやがって。」

恋しいからこそ嫉妬する。縛り付けておいて、自分だけ自由になれると思うな。遼は自由を好み、やりたいように生きてきた。その間に、しがらみに苦しむ人間を多数見てきた。養われた観察眼は衰えず、更に先を読む目。

「…遼。俺は」

「よくツラ出せたよな。俺だって女だ。サノに脅迫されて渋々婚約した。テメェがどこぞに女作って破棄するか死ぬか殺すか、そんときゃそれしか頭に無かったんだ。」

当時義務教育中の遼、片や成人したスクアーロ。遼に情熱的な恋をしていたスクアーロが囁いた、狂おしいほど愛してるという言葉は遼を最悪の形で裏切ったのだ。心を開かせ恋をさせたのに、裏切った。その体に子供を宿させて。

「遼。…子供は、どうするつもりだぁ?」

「育てる以外に俺の選択肢はねぇ。俺は捨てねぇよ。裏切られても好きだった奴の子供、里子に出せるワケねぇ。」

盛大な告白なのだが、遼は認識していない。

「遼…ゴメン、ホント悪かったぁ。」

「…話は終わりだな。仕事あんだろ。かえ」

帰れ、と言いかけた遼の唇を奪い、力強く抱き締めて涙を流すスクアーロ。何年も流さなかった、様々な感情が入り乱れた涙。

「バカで、ゴメン。」

唇を少しだけ離し、甘く囁いた。こんなにも愛しくて会いたかった遼が、香水に我慢して何度も許してくれていた。それだけでも充分嬉しいのに、まだ好きだと言ってくれている。その事実がたまらなく幸せだ。

「人の話聞いてっか受験生の敵。」

「ボスになぁ、遼連れて来なきゃ帰るなって言われてんだぁ。」

自分の言葉で言えないスクアーロを遼は力一杯振り払った。

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