文句あんのか | ナノ
闇よりも濃い炎
遼は日本に戻ると、歓楽街に近い所有物件に移り住んだ。並盛では目立ちすぎるからだ。日中は買い物など日常生活に必要な物を買って、夜はひたすら情報収集をする。携帯も買い換えてアドレスや番号も変えた。悪知恵は健在だ。
「…成る程な。結構後ろめたい事やってんじゃん。そう来なきゃあやりがいがねぇ。」
命さえあれば生き抜いてみせる、確固たる自信とかつて恐れられた情報網を、数日でいとも容易く復活させた。それだけ影響力があったのだ。遼は、不敗のまま語り草になっている。
「…銀の髪に黒いコートってセフィロスかよ。…諜報部も暇なんだな。隠し子の2人や3人居てもおかしくねぇ。妊娠中の正妻探しにここまで動員するか。」
目撃情報と、足取りを見ればスクアーロだとすぐ解る程遼は見てきた。しかし、身重の遼がどこを歩こうと目立つのは事実。嫌悪感と怒りに、我を忘れない自信は無い。
「仏の顔も三度まで、それ以上我慢したんだ。」
近付いて来る情報、遼はソファにどっかりと座って携帯とパソコンを交互に見て監視する。どのツラ下げて会いに来るのか、逆ギレしたら三行半だと思いつつ。離婚届も指輪もスクアーロに纏わる、子供以外の全てをイタリアには送りつけたが簡単にはいかないと判断していた。見た目や仕草を変えても、ヴァリアーは見抜くだろうと何もしていない。
「…来たか。」
口を歪め、遼はパソコンと携帯の電源を切る。十年前と寸分違わぬ、関東のならず者達を震撼させた関東最強の瞳。夕日に輝く鋭利な刃を彷彿とさせる、残酷にして非情な…嫉妬に身を焦がし捕らわれた女の目。
「オヤジもこんな気分、味わったんだろうな。血は争えねぇ。嫉妬でどす黒くなっちまいそうだ。」
コーヒーを飲み干し、息を深く吐く。怒りに身を任せてはいけない、と理性を働かせる。母親と同じような真似はしたくない、その一心で自制してきた。恋なんて無縁だと信じていた。蓋を開ければ傍にあり、苦しむ事となった。そして遼は子供を宿したまま、殆ど同じ事をしてしまった。
「俺は子供を捨てねぇ。」
決意に満ちた宣言と共に、インターフォンが鳴り響いた。
「はい。どちら様でしょうか?」
決戦の火蓋は、切って落とされた。
「…遼。話がしたい。入れてくれねぇかぁ?」
「名乗りもしない方を入れる程、不用心ではありませんので。」
数人の部下が窺っていたのは、遼とて判る。気配が散ったと共にスクアーロは名乗った。
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