文句あんのか | ナノ
猫踏んじゃった


妊娠中にありがちな、食欲不振などの症状が一切無かった遼。よって、自覚が余りない。ザンザスとレヴィを除く面々が、多少なりとも甘やかすようになったが甘え下手な遼が素直になる筈も無く。

「遼、医者はなんか言ってたかぁ?」

「順調だと。あの程度なら軽い運動って事だよな。丈夫なんだな赤ん坊。」

お腹は出ていないから、相変わらずメンズ服を着ている。髪の毛も無造作に束ねて化粧もしない。

「切り傷また増やしやがってバカがぁ。」

包帯をなぞりながらスクアーロは遼をきつく抱き締める。身長差は気にしない事にしたようだ。

「前からこんな調子だったろうが。」

スクアーロ限定でハグは許してしまっている。傷痕だらけの体でも、柔らかくなるべき所はなっているし、成長した所も多々ある。何だかんだでいちゃいちゃしているのだ。

「遼の子供だからなぁ。簡単に死なねえだろぉ。」

「スペルビ、その手は何だ。」

遼の腹部をさすっていた手が、だんだん下に降りていく。スカートではないのがスクアーロとしては、残念だ。

「遼が足んねえ。」

「俺は栄養素になった記憶なんざねぇ。…言わないでやってたけど香水くせぇんだけど。」

ピタリとスクアーロの手が止まり、目を向けると遼の目が射抜いた。説明及び釈明が必要な状況だ。スクアーロは香水よりも血の臭いが強い、と遼は言い切っていたので非常にマズい。

「…」

「…」

妊娠中だから発散しちゃいました、などと正直に言えば即遼は帰郷するだろう。更に音信不通になる。久々にイヤな汗をかいているスクアーロ。貞操観念の強い日本人ならではの潔癖さ。遼は特に大嫌いだ。

「成る程な。リアルにドラマみてぇな展開体験するたぁ面白いモンじゃねぇ。じゃあな。」

スクアーロから離れ、警備のヴァリアー構成員に指示を出す遼。目が据わっていて果てしなく怖いので、逆らう者は居ない。

「…遼…?」

「王子、また会う時は日本だな。そこの受験生の敵、根性叩き直しといてくれよ。サノに宜しく。」

鞄を片手に、遼はサクサクとヴァリアー本部から出て行く。バタバタと慌ただしくなったヴァリアー。

「…バカ鮫。遼は母親知らずで育った日本人なんだよ?カルチャーショックどころか古傷抉ってさ。それしていいのオレだけなのにバカ鮫。」

メーターを振り切ると、却って怒りが静かになる遼は飛行機の中、一筋だけ涙を流していた。結婚後初めてニックネームで呼んだ、大事の始まりである。

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