文句あんのか | ナノ
美しき支配者へ


眠りを貪る遼へ、スクアーロはそっと触れた。きめ細かく白い、柔らかな女の肌は幾つも見てきたが、惚れた欲目から最高級の手触りに思えた。

「朝か?受験生の敵。」

鋭い眼光がスクアーロを射抜く。丸くなったままでも臨戦態勢に入れる、関東最強と謳われる遼。機嫌はよろしくない。

「寝ていいかぁ?」

「好きにしろ。邪魔しやがって。」

再び目を閉じた遼を見て、寝起きに期待した俺がバカだった、とキングサイズのベッドに入り込む。体格に合わないベッドを使い続けた癖で、密着したくも出来ない。出来るだけ近付き、遼を抱き締めるようにするスクアーロ。暑がりで季節問わず、肌を出したまま寝るので容易に触れられる。寝相がよろしくない事は重々承知だ。

「…俺の付けた傷…。」

遼の腕に残る、肉が抉られたような傷痕。斬りつけた瞬間に火薬を使った、結構な重傷だったがそれでも負けたのだ。なぞれば何度も戦った、赤い景色が蘇る。

「暑い。」

「…もう少し、な。」

超ド級の暑がりだから、ベタベタされるのは嫌いだと知っていても、スクアーロは触れていたい。短くはないが長くもない人生で、全面的に他人に頼る事をしなくなった弊害と言うか。

「遼。」

「んだよねみぃんだよカッ消すぞ跡形もなく。」

「…ボスみてぇな事言うなぁ。」

「サノと一緒にすんな。」

スラリとした四肢はどちらの意味でも破壊力抜群で、関節はゴツくともそれなりに脂肪があるから華奢にも見える。ただし、寝込みを襲うには死ぬ覚悟が必要不可欠だ。寝息を立てていても警戒を解かない、何日泊まっても変わらない遼の癖に溜め息を禁じ得ない。堅固な城の中はまだ開かない扉だらけだ。傍から見ていれば見事ないちゃいちゃ加減だが。

「…やっぱり、最高の女だぁ。」

「うぜぇ。」

容赦なく肘がスクアーロに入れられる。キレた時よりは軽いが、痛い事に変わりはない。首筋に指を這わせると、遼の肩が動いた。鳥肌が立っている。眉間にシワは寄らないが、眉を顰めていて不快なようだ。元々首は滅多に触られない。

「ヴァリアーじゃなくてもいい。ただ…」

俺の傍に居て、全てを奪うチャンスをくれ。そう言い掛けたが、スクアーロはそのまま目を閉じた。数十分後、暑いと蹴り飛ばされベッドから落とされる事は全く考えていなかったスクアーロだった。

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