文句あんのか | ナノ
扱いに困る


敵意には慣れているが、恋愛的な好意には全く耐性のない遼。スクアーロはすぐに異変を察知した。風呂から上がっても視線は向けない、手が触れ合うと即座に手を引くなど純情でウブな反応の数々。今までが今までだったので、おかしいと思うのは当たり前だ。

「遼、なんかあったのかぁ?」

「ヒバキョンにヒビ入れられたとかか?」

「そうじゃなくて…気になる奴とかいるのかぁ?」

具体的に名前を出されたらそいつ殺す。と思いながら食事をしていたが、遼の顔が赤くなっていく。白状しているも同然だ。

「ん、まぁ…気になるってかどうしたらいいのか分かんねえってか。」

ポリポリと頬を掻く遼の目は鋭さが無く、泳いでいるので珍しい。しかしスクアーロは腸が煮えくり返るような怒りが、ふつふつと沸き上がっていた。

「…誰だよ、それ。」

深入りを好まない遼に、異性として見られ好意を寄せられるなんて、自分以外にあってはならない。子供じみた独占欲だが、スクアーロには余裕のかけらも見あたらない。

「…受験生の敵。お前だよ。」

「……は?」

思わずスクアーロは穴があきそうなぐらい、遼の顔を凝視した。しかし目は合わない。これでもかと逸らされている。耳はおろか、首まで真っ赤になっている。男扱いされてきた遼にとっては、異性として見られる事そのものが苦手だ。

「…大佐に聞いたら普通やんねえって言われたし、どうしていいか分かんねえんだよ。」

「…えっと。そりゃ嫁になれって奴か?」

つられて赤くなるスクアーロ。純情すぎる2人だが、スクアーロは今しかないとすら考えていた。

「そ。そりゃ俺もこんなナリでも一応女だけどよ、他人から見られた記憶無かったからな。」

骸は遼本人ではなく、怪力を欲しがっている。真っ向勝負に出ているのはスクアーロだけなのだ。トリックスターは、相手の虚を突いて遊ぶもの。意外性を追求して楽しむのだから、感情がぶつかり合う事は少ないのだ。

「…遼は、どうしたいんだぁ?」

「へ?…全然考えてなかったな。受験生の敵は裏稼業でも立派な社会人なワケだし。俺は学生だからずっと冗談だと―」

思ってた、と言いかけた遼の唇を奪うスクアーロ。即座に拳が腹に入れられて雰囲気台無しだ。

「…冗談で遼みたいな女嫁にできるかよぉ。」

腹を押さえながらスクアーロは口元が緩んでいる。一歩とは言え、鉄壁の城に入り込めた喜び。後は気付かれないように忍び込み、姫を攫うだけ。…凄まじく困難である事は間違いない。

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