文句あんのか | ナノ
魅入られたが最後


顔を合わせればドイツに勧誘と、恒例行事に近い手塚と遼の押し問答。それに遼から決着をつけようとしていた。

「みっちゃん。俺さ、みっちゃんが嘘つけるような器用な人間じゃねーの知ってるし約三年の付き合いで本気だって解った。みっちゃんは嫌いじゃねぇってか好きだけど、本気で俺にドイツ生活出来ると思ってんの?」

言語や風習、様々な壁が立ちはだかる国外生活。手塚もそこは自分すら不安を隠せない。ひたすらテニスを闇雲にしていればいい事ではない。

「遼なら、いや遼が居てくれるなら俺は世界を目指し続けられる。だから居て欲しい。」

「…みっちゃん。お互い恥ずかしいセリフ言わないでくれ。」

うっすらと赤くなった遼だが、嫌がらせにキスなども充分恥ずかしい。ある程度好感を持った人にしかしなくとも。手塚も思い返して赤くなってしまった。表情が変わらない事が不思議なくらいだ。

「本心だ。遼から、絶対目を離せない。言っただろう?5年後の遼を予約したいと。」

「みっちゃんって結構欲張りだよな。夢の為にドイツ行くのに、俺も欲しいってさ。」

「自覚はある。だが、叶わないと決めつけては叶うものも叶わないだろう。」

遼にしてみればかなり前に言った事なので、覚えていない。だが、チャレンジ精神は遼が好きなものだ。ふわりと微笑み、手塚を見る目は対等と見なしている。体つきこそ男のようだが、線は細い。男子は滅多に拝めない晴れやかな笑みに、手塚は思わず見惚れてしまっていた。

「そういうとこ、変わんねえなぁ。クソ真面目で頭固くて意外に寂しがりなクセに意地っ張りだ。期限は5年だよな?」

「…あぁ。5年だ。それまでに必ず、遼の心をもらい受ける。」

「卒業まで秒読みだけど、オヤジは言いくるめて色々下準備してやる。勉強もする。5年の内に、俺の身も心も奪ってみせろ。チャンスはこれっきりだ。十代後半全部、みっちゃんにやるから。」

僅かに目を見開き、動揺した手塚の唇に人差し指を当てて遼は笑った。

「この佐々木遼はな、ぼやーっとしてて手に入るモンでもねぇ。真っ向勝負で挑めよ?一番近くにみっちゃんは居たんだから大体解るだろ。」

幸村がチェシャ猫、と例えたような意味深な笑顔。近くに居る事を許しているのに正直に言えない、大した意地っ張りだ。トリックスターならではの不器用さ。手塚が恋した神出鬼没、関東最強と呼ばれる少女は気紛れでも、ドイツに行くと言った。

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