文句あんのか | ナノ
忘れるな、関東最強を
お礼参り強化月間、その言葉通りコーヒー屋から出てすぐに遼はナイフで腕を切られ、いつものようにキレて暴れ出した。
「逃がすかぁぁ!川拝んで来いやぁぁ!!」
「…。」
5、6人の男は遼の足元に倒れ伏し、少し先に3人。掠り傷の遼は、敗者を省みず歩き出す。負けを知らない関東最強、それが遼であり惚れたのは手塚。見慣れた所為か、恐怖を感じなかった顔。その下には獰猛な性分がある事を忘れてしまうのだ。
「で、けごたんがなんで俺に懇切丁寧にドイツ語教える口裏合わせしてんだよ俺の意思スルー?」
何事も無かったかのように振り返り、歩きながら手塚を見る遼。恐怖を覚えない中学生はごく稀だろうし、手塚は久しく感じなかった畏怖に口が動かなかった。細くはないが、極端に太い訳でもない腕で何人も叩きのめした。その事実を目の当たりにして、平然としていられる手塚ではない。
「みっちゃん、今更怖じ気づいたか?確かにガッコじゃあんま騒ぎ起こさなかった一年だったけどな、簡単に俺は忘れてもらえねえインパクトがあんだ。」
獰猛且つ、凶悪な笑み。それでいながら、楽しそうでもある。神出鬼没とも言われ、ハチャメチャなニックネームで呼んでからかう。そうだと解っていて欲しがったのではないか?と挑戦状を叩きつけられている状態に近い。
「そう、だな。佐々木が売られた喧嘩を買うのは入学当初から変わらない。」
「性格変えようなんて思うなよ?生憎やられっぱなしになってやる優しさは俺の成分に無い。」
「あったら驚く。」
「ノーベル平和賞だっけ?アレの逆俺なら貰えんだろ。」
「…笑えない冗談だ。」
尤も、手塚が笑うところを彩菜に指摘されても、遼にはちっとも判らない。
「みっちゃんが爆笑とか世界死亡フラグだって。」
「そこまで言うか。」
露骨に顔をしかめる手塚だが、話が逸れている。
「あったらヤバいって噂になってたのは俺が校舎投げる、みっちゃんが笑う、しゅうちゃんがマジギレするとか。」
「前後はともかく何故俺だけ表情なんだ。」
「しゅうちゃんフォローしてやれよ部長。」
バカデカくとも老けていようとも、まだ辛うじて中学生。会話レベルが段々下がっていくのは仕方がない。…と言うよりは、遼のペースに手塚が巻き込まれているだけである。傍から見ていると、どんな関係?と思われてしまう事すら、その時の手塚は考えてもいなかった。遼は当たり前だ。
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