文句あんのか | ナノ
2歩×10下がる


受験生の宿命、と言うよりは卒業生の特権である卒業前の休み。遼にとっては有り難迷惑でしかない。暇さえあれば、手塚がドイツに来てくれと頼み込む。

「みっちゃん、ドイツって観光に行けとでも言ってんのか?ドイツ語なんざ聞いた事もねぇ。」

「アルバイトはドイツ語からだ。」

「あ、そーなんだ。造語かと思ってた。」

あの手この手で話を逸らし続けるにも、成績優秀な真面目と不真面目に普通の成績では圧倒的に不利。

「無駄な情報を削除すればドイツ語ぐらい覚えられるだろう。」

「俺の英語の成績知ってて言える辺り買いかぶりすぎだ。」

「地理的に、日本と比べてドイツは涼しい。」

「いや行きたいのはアラスカなんだけど。叶うなら南極も。」

「話をはぐらかすな。」

「じゃあぶっちゃけた話だけどな。なんで俺?オヤジにドイツ行ってきますで済むとでも?」

二度言わせる気か?と手塚は眉間のシワが深くなるが遼の父親はアメリカ在住。親バカを通り越した、と遼が言うくらいだ。かなりの難関である。国一と遼の祖父が旧知の仲で、祖父と父親は不仲。あっさり愛娘を見知らぬ土地に、加えて祖父繋がりと腐れ縁で、比較的仲のいい男友達レベルにしか見られていない手塚と一緒に行きますなど、殴り飛ばされそうだ。実際はそこまで過激な人ではないのだが。

「ほーら言えねぇじゃん。勝算のない事しようとすんなよ。学習したろ?つーか今お礼参り強化月間だから疲れてんだ。」

巷の兄ちゃん達が、一回は敗北宣言を遼に言わせようという強化月間。主に高校生が挑んでは、病院送りとなっている。物騒なのはいつもの事だ。バカさ加減になら、幾らでも敗北宣言するのだが。

「…まだ喧嘩をしているのか。」

「過去に捕らわれるな。どっかのニュータイプみたいに捨てる勢いで。たろじぃブレンドお代わり。」

コーヒー屋で頼み込まれていた遼。マスターは必死に笑いを堪えていた。遼を相手に、回りくどい事をするのは難しい。

「遼さん、あまりにもニブいから見てて彼が可哀相なんだけど。」

「反射神経と気配読むのは得意だぞ?」

「それがニブいんだよ?」

頭を抱えた手塚。クリスマスと正月の事をすっかり忘れているのか?と思わずにいられない。しかし遼はプレゼントを使用している。意味が分からない。

「鈍いか?蹴り入れる速さとか体格に合ってないって言われんだけど。」

「そういう話じゃない!」

手塚の気苦労はまだ続く。

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