理系バカと呼ばれ | ナノ
兼任って本当は大変


跡部にとっても、苦渋の決断であった。放送委員長が絶対に有能でも頼みたくない、と断言する香奈の手を借りて引き継ぎ作業を完遂する。
三年間生徒会長の座に君臨していたから、今更になって慌ただしくなり始めたのだ。

「…香奈。前に欲しがってたハブをやる。だから手伝え。」

「何を手伝うの〜?」

正確にはセアカゴケグモ、セグロゴケグモ、ハブを欲しがっていたのだが節足動物嫌いの跡部は見たくもない。
第一、法律の壁を突破しなければならない。全て有毒更にクモ二種は生命に関わる猛毒だ。全て、きちんと法律に関わる生物である。

「生徒会の引き継ぎ、その書類作成だ。」

「日本語〜?」

「当たり前だ!誰も彼もが英語読み書き出来るシステムじゃねぇ!」

思わず教室で怒鳴ってしまった跡部だが、香奈に関しては日常茶飯事。とうの香奈は、不思議そうに跡部を見上げている。
床に落ちて広がりそうな髪の毛、青白く不健康にしか見えない顔だから直視はご遠慮したいクラスメート一同。いくら天下の跡部様が女子を構っていても、素材に問題があるのだ。

「日本語入力の場合〜キーボード一台入力は〜10分間1362文字〜変換有りで〜右手は771文字〜左手は784文字が最高記録だよ〜。」

ちょっと待て。何だそのデタラメ極まりない数字は。と言いたいところだが香奈は嘘を吐かない。言っても意味がないが、香奈所持の殺人ファイルを見ながら答えたのだ。偽りなし。

「よし、一台貸す。大概前例はファイルに纏めてあるから作業だけやれ。」

「はぁい。」

寧ろ作業以外しないで下さい、とお願いしたいぐらいだが下手な事は言えない。そして生徒会室の一角を占拠して、香奈の指が素早く動く姿に生徒会役員は度肝を抜かれた。

「景吾君〜これ前例が無いよ〜。」

「…香奈、どこまでやった?」

「前例あるのは始業式から卒業式まで〜。」

まだ一時間しか経過してないんですけど。香奈を甘く見ていたり、奇妙な事しか知らなかったりするとこういった恐ろしい事になる。香奈は一人で、生徒会総出の作業を終わらせた。

「次はトラブルシューティングだ。」

「はぁい。」

使える時は存分に。香奈はハブ目当てに今は従順なのだ。
跡部は涼しい顔で作業をするが、他の役員が気の毒でしかない。香奈のマニュアルは、どこまでも効率化重視。
応用出来る人材が跡部の後釜になるように、と祈るしか無かった。一応彼らも、仕事はしているのである。

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