理系バカと呼ばれ | ナノ
天才は万能ではない


相も変わらず、ひたすら研究実験作成の日々を送ろうとする香奈。放置すれば完全に世捨て人の域だが、知名度は世界。名前だけだが中学生には理解しにくいものだ。
そして今日も今日とて、ふわふわとしたワンピースを着た香奈を不二が連れ回している。

「香奈、どれが食べたい?選んでね。」

どれでもいい、を封じ込めてケーキを選ばせる。そうでもしなければ、思考が理解したくないところに行くからだ。

「じゃあこれ〜。」

自身の感覚に興味を示さないが故に、最も手近なケーキを選ぶ香奈には頭痛を禁じ得ない。
ショーケースの煌びやかなケーキ、一般的な女の子は悩むものだ。体重と財布を心配して。そんな心配が全く要らない華奢で金持ち、と言うステータスを持つ香奈は内訳を知らなければ、人類の敵に等しい。

「それじゃこれも一緒に。僕は…ガトーショコラとコーヒーにしようかな。」

他人の金で豪遊しているのだが、休日を潰しストレスに晒されるのだ。これくらいは目をつむってあげたいところだ。
トレイを持った店員は、あまりのちぐはぐカップルに見えないカップルを何とか案内した。リアル貞子だろうと、客に変わりは無いのだ。

「…457キロカロリー」

「香奈。ケーキ屋さんでカロリーは言ったらダメだよ。」

ケーキを食べている香奈を容赦なく叩く。到底、カップルには見えないが。
運の悪い裕太達が居合わせてしまった。

「げ、兄貴と信濃。」

「やぁ裕太。裕太が珍しく教えてくれたから来てみたんだ。」

爽やかな笑みを浮かべる不二だが、香奈はもぐもぐとケーキを食べている。
当然ながら、裕太はあらぬ想像をしてしまった。

「…兄貴、信濃と付き合って…?」

「嫌だよこんなリアル貞子。」

香奈と目が合った観月が、ここぞとばかりに舌先三寸を披露する。

「天才と呼び声高い不二君も、世界的科学者の信濃さんには敵いませんか。」

「喜んでここは譲るよ?裕太と食べる方が楽しそうだしね。あ、香奈。クリーム付いてるよ。」

さり気なくナプキンで香奈の口元に付いたクリームを拭う仕草は、何故か手慣れているように見える。

「兄貴、信濃と何やってんだ?」

「お出かけ、って言ってたよ〜?」

当事者でありながら、全く興味の無い香奈は主旨を覚える筈がない。いずれ、観月も香奈を引きずり回さなければならないのだ。

「信濃さんを真人間にする会の行事ですよ。裕太君は二年生なので外されていますが。」

それで納得した裕太だったが、ケーキを楽しむ暇すら無く観月と不二の舌戦に巻き込まれていた。

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