理系バカと呼ばれ | ナノ
楽しめ休日




謙也は泣く泣く、香奈を連れて行こうと生活感の欠片も見当たらない部屋に入って絶句した。香奈が、何かを一心不乱に作成していたからだ。

「…香奈ちゃん、出掛けんで。」

パジャマではなかった事が救いだが、一刻も早く逃げ出したい衝動に駆られる。器具を取り上げ、もの言いたげな香奈を抱えるとさっさと連れ出したのだが。
あまりの軽さに目を見開いた。柔らかさが全て胸に集中したかのような、病的なまでの華奢な体。
多少気になる事は気になるが相手は香奈である。ひたすらショッピングと食い倒れに費やそうと謙也は内心誓った。

「あぁっ!コレ新発売やったんか!?うわ悩むわ〜。アルバムやし。」

「こっちはデザインがええねんけど太さがなぁ…。どっちにしよ。」

香奈を引きずり回しながらショッピングを楽しんでいたのは謙也だった。香奈は手を握られ、逃げようがない。
デートの際は、羞恥心を捨てざるを得ない。例え周りの目が痛くとも。香奈を放置してはならない、と言う規則を忘れ、あちこちを動き回る。

「香奈ちゃん、昼飯ここにしよ。」

「うん〜。」

ファーストフード店に入り注文をする。香奈が食費を支払っているので、かなり奇異に映るだろう。
逃げ出されても追いつく自信はあるが、互いに目立つので手は離せない。離したくとも離せないのだ。
まったくもって変な組み合わせだが、仕方がない。

「香奈ちゃん、楽しい?」

「ちっとも〜。」

携帯並びに情報端末全てを持ち歩けないので、謙也がショッピングを楽しんでいる間は延々と理論を組み続けていた。ゆらゆらと頭を揺らす癖を、直していないのだ。

「あかん、そこは嘘でん楽しい言うとこや。」

不思議そうに首を傾げ、方言がさっぱり解らないと言いたげだが…ポテトを食べているため口は開かない。しばらく歩き回り、ひたすら関西弁を解説する謙也に聞き流す香奈。
テニスの話は、意地でもしない。

「ちょぉ小腹空いたな。クレープでん食おか。…どれがええ?」

「どれでも〜。」

クレープを片手に、悪い意味で目立つ2人。一瞬たりとも謙也は気が抜けない筈なのだが、白石の話から油断していた。

「あ、餌買わんといかんかった。」

「何の〜?」

「イグアナや。」

「種類は〜?日本で飼育できるイグアナは」

「それ以上言わんとって!あかん、油断した…。」

自分以外にも、危険は及ぶのだ。
帰り際、香奈から外貨で交渉され謙也は文字通り脱兎のごとく逃げたのだった。却って熱烈に言われる事を考えなかったのである。

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