理系バカと呼ばれ | ナノ
何もないなら考える
行われた、全国大会決勝。悪魔化した切原によって怪我をした乾の手当てをさせられたが、骨折ばかりは違法行為なので病院送り。
真田との戦いで負傷した手塚の手当てまでさせられ、踏んだり蹴ったりだ。
「…記憶喪失?調べるにも〜器具が」
「香奈先輩に期待してませんから。」
日吉必携が唸り、どうしたものかと青学メンバーは頭を抱えている。
下手をすれば香奈に文字通り骨の髄まで調べられ、面白い症例として研究材料扱いだ。それだけは、避けたい。
香奈を真人間にする会での規則にすらある。協力、と香奈は言い切るが、中身は人体実験。取れるだけのデータを取り尽くし、今後に生かそうとするのだから。
「忍足!香奈は任せるぞ!行くぞ日吉!」
「行ってらっしゃーい。香奈ちゃんは任せとき。」
記憶喪失状態の越前に、香奈を会わせる訳にはいかないのだ。
向日、宍戸が長い髪を押さえ忍足が膝に乗せて、傍から見ると果てしなく怪しい光景。関係者以外は、知らない方が幸せだ。
そもそも、先ほどから香奈は悪魔化した切原と仁王のイリュージョン、跡部の氷の世界など頭をフル回転させている。
「侑士…俺香奈の研究対象にならなかった事を幸せだと思うべき?」
「…やな。俺かて危ういんやから。」
心を閉ざす、と称された忍足は何とも言えない。香奈にしてみれば、全国大会は宝の山なのだ。裏を返せばテニス部員達の人生に関わる、凄まじい事。
「…俺は最初から眼中に無くて安心したぜ。」
宍戸の偽らざる本音であるが、原理解明さえされれば安全なのだ。香奈は、今までになかった事を調べられる限り徹底する。
「密室で長時間刺激の一切無い状況下に於いて幻覚を見る事例はあるが同一のものではなく」
「香奈ちゃん、黙っとき。怖いわ。」
ゆらゆらと頭を揺らす香奈を叩く事で黙らせるしか、現在は手段が無い。
黙っても考える事は止められないのだ。香奈は思考を中断させた事が、氷帝入学以来無いのだから。
「なぁ侑士…今思ったんだけど、引退したらどうすんだよ?」
「引きずり出すしか無いだろ。香奈は日曜の練習忘れるんだぞ?」
「会長と副会長も考えとるやろ。半年足らずで香奈ちゃん真人間に出来ない証拠はあんねん。」
酷い言い草だが、事実。隙あらば、テニスとは全く縁もゆかりもない研究に思考が吹っ飛ぶのだ。科学至上主義も、ここまで来ると呆れを越えて尊敬ものにすら見える。
「時間稼ぎ、ありがとうございました!!」
桃城の叫びに、越前の安全が確保されたのだと3人は安堵の溜め息を落とした。それが甘かった事に気付くのは、まだ先である。
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