理系バカと呼ばれ | ナノ
科学者の本能




因縁にして宿命のライバルとすら謳われる、氷帝と青学との戦い。香奈はジッと見つめながら、手元のノートに本能の赴くまま英語と数字の羅列を書いていく。とても不気味な光景だ。

「やっぱえぇなあ、ダボダボジャージ。香奈ちゃん短パンやから一歩間違うたら襲われ」

「忍足先輩。黙って下さい。」

ごく稀に、忍足にすら日吉必携は唸る。全ては忍足が悪いのだが彼とて、思春期の健全な中学生。
汗でべったりと首に張り付く長すぎる髪や、無心で書き続けるノートの存在を無視すれば立派な女の子。
跡部に無理矢理着せられたジャージ姿は拝めないだろう。そもそも、香奈が普通の体操服で嫌でも視線が胸元に向かう青少年達への配慮だ。

「とりあえず現実に戻ろうぜ侑士…中身アレなんだから。」

香奈特製ドリンクを飲んでいた彼らは、また試合に目を向けた。樺地と手塚の打ち合い真っ最中。香奈の目はルールそっちのけで手塚の腕を凝視している。
しかし、異変に察知したのか照明を見上げた。

「風で照明が揺れてる…今日は〜晴天だけど降水確率20%で〜ところにより豪雨だから〜」

「香奈先輩も黙って下さい!」

試合中に天気予報をするなと、渾身の一撃。スタミナ切れで負けた割に、意外と元気だ。
香奈とトレーナー達によって組み上げられた調整は見事だが、断言しないのだ。やる以上は完璧を目指すが引き上げる訳ではない。なんとも、世知辛い事情である。

「それにしても、香奈の想定の範囲内で乾がサーブを打ったのには驚いたな。本当に理系は香奈にお任せ状態だし。」

滝が計測を続けながら、素直に賞賛してしまう。当時は一笑に付したが、現実で見せられては何も言えないのだ。

「ま、おかげで対策は打てたもんな。」

負けたけど。と言わんばかりに向日はむくれる。
香奈の予言にも近い推測に基づいた練習は、それこそ泣く暇も無かった。練習中は、香奈も大人しくマネージャーをやっているから安全ではある。

「香奈は技の分析から対処まで、完璧にやるからな。ウチのメインブレーンではある。」

「でも技だけですよね。」

日吉の身も蓋もない一言だが、香奈無くして今の氷帝は無い。胃痛に悩む宍戸やストレスを溜め続ける日吉も、能力の高さだけは否定できない世界的科学者。

「ちゅーか、香奈ちゃん手塚ガン見しとんで?」

「手塚ゾーン完全版、だろうな。人工的に再現されたら手塚も終わりだ。」

他人事のように言っているが、相変わらず香奈は跡部のインサイト研究も怠っていない。

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