理系バカと呼ばれ | ナノ
隣のメラニン色素




跡部から見ても、香奈は奇妙奇天烈なクラスメートに思える。
数学の授業は全く聞かず、意味の解らない式や図を書き続け、英語は流暢に話すクセに国語、特に漢文と古文は壊滅的。不気味と言うよりは、何故いるのか?と疑問が先に出る類の女子生徒だった。

「また研究か?信濃。」

分厚い、持ち歩くには大きすぎて小柄な香奈に不似合いなファイルを片付けている所に、声をかけた。隣の席だが、一度も跡部からは話し掛けていない。
しかし香奈は、跡部を見ると頷いた。

「おはようございます、生徒会長。私にとって研究は生き甲斐ですから。」

何の感情も見えない、目と声音。初めて声を掛けられても動揺すらしなかった。テニス部は、研究対象であってそれ以上は無い。研究が終われば、それまでの事なのだ。
すぐに目を離して作業を再開する。

「…ここまで関心が無い女も珍しいな。」

見目麗しく、成績もいい跡部には興味がない。身体的な能力や、成長課程には凄まじい執念を燃やす香奈。バスケ部、サッカー部も研究対象にされていた。
徹底的な研究を信条とするリアリスト。それが跡部の香奈に対するイメージだ。だからこそ、引きずり込みやすくもある。餌は自分達になるのだが、妙な事には何があってもなり得ない。色恋沙汰など無縁の香奈。喜怒哀楽は、研究に纏わる事にだけ見せるとも聞く。
香奈の苦手な国語の授業で教科書を音読している香奈を何気なく見ながら、跡部は薄く笑みを浮かべた。

利用するのはお互い様、研究材料は山ほどいる。知識を使わせる分、余地は幾らでもある。

跡部達、百花繚乱とすら言われるテニス部。その花々の見目を気にせずひたすらに、我が道を突っ走る香奈による不協和音。
理系に関しては、他の追随を許さないが故に欠けたモノを知らないまま、跡部はテニス部に引き込む事にした。
知らなければ良かったと、放って置けば良かったとうんざりするくらい後悔する事までは、流石の跡部も予測出来なかった。
香奈にしてみれば、そこまで干渉される所以は勿論、筋合いも解らない事。
生きる限り、脳が思考を止めない限り続けたい事なのだから。世界には知らない事がまだまだあって、知の虜になっている。
名誉よりも何よりも、香奈は探求心で動く。貪欲なまでに、知りたいという欲望に抗えない若さ。無垢で残酷だが、純粋すぎたとも言い訳は出来る。
跡部に対して、香奈は一度突っ込んだ疑問をぶつけていた。
ご家族に白人の方はいますか?と。

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