理系バカと呼ばれ | ナノ
少年達の夢




特別枠として、氷帝は全国大会の切符を手に入れた。つまり、香奈も強制参加と言うことになる。
跡部が立海まで遥々向かい手に入れた、氷の世界の存在はまだ知らない。基本的にぼんやりと試合を見ながら、頭の中では数字が乱舞しているだけだ。

「信濃さん!オジイが!手当てしてくれ!」

黒羽が氷帝レギュラー達に声を必死でかけた。香奈は救急車よりも早く、適切な治療を施せるのだから藁にも縋る思いだ。

「樺地。香奈と救急箱を運んでやれ。」

「ウス。」

第一試合、とうに樺地はストレート勝ちしていたので香奈を抱き上げ、救急箱を軽々と持ち上げた。
黒羽の誘導で、樺地は平然と香奈を運ぶがよく考えて頂きたい。香奈は小柄で、髪のやたらと長いリアル貞子呼ばわりされている。奇異に見えて当然だ。

『左目に打撲、鬱血及び腫れ。懐中電灯。』

「ウス。」

何を言っているのか、その場にいるメンバーは殆ど理解出来ない。樺地とて、断片的に聞き取る事が精一杯のアメリカ英語。
消毒を手際よく行い、オジイの瞳孔を調べて異常無しと判断するなり応急処置を施していた。

「詳しく調べなきゃ〜角膜へのダメージは解らないけど〜失明はしてないよ〜?これ以上は違法だから〜免許持ってる人に診察してもらってね〜。」

高々10分にも満たない治療。
無精にして、数々の突飛な行動をこれでもかと青学に語られたのだが、あっさりと医療行為をやってのける手腕は本物だ。樺地のフォロー無くして実行は出来なかっただろう。

「…何者様?」

「香奈先輩は…外科医、です…。」

ポイポイとガーゼや手袋を捨てていく香奈を、六角メンバーは呆然と見ていた。外科医でも、基礎は嫌でも学ぶのだ。専門では無くとも、香奈ならやる。

「お、オジイ…って信濃さん!?何してんの!?」

「手当てしてくれたよ〜」

片目をガーゼに覆われたオジイが、シンプルに説明して負けたにも関わらず佐伯は安堵の息を吐いた。

「あ、やっぱり香奈だ。何やったの?」

「治療〜。違法にならない範囲で〜。」

にっこり笑ったまま、不二は目一杯香奈をひっぱたいた。これ以上になく、目立つ事を香奈は考えない。

「あのね、香奈?確かに香奈はお医者さんだけど今時中学生兼外科医なんて日本に居ないよ?それにあれこれ作って使って嫌でも目立つんだよ?どうせ会長が後先考えないで送り込んだんだろうけど。」

既に、遠くからの視線が痛いほど集まっている。特に比嘉は、ただで済まない怪我だと知っているだけに怪しんでいた。

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