理系バカと呼ばれ | ナノ
感動の再会




宍戸が滝に勝ち、異例のレギュラー復帰となったのだが。
滝は案外タフなようで昼休みは当然の如く、ネチネチと説教を繰り広げていた。

「…なぁ侑士。香奈が一度も宍戸呼んでねぇ。」

「岳人、気付くのおっそいなー。」

特徴で覚える香奈にとっては、致命的な事だ。それだけやる気が無い、とも言えるが。
宍戸が姿を消しても周囲は変わらず、熱中症で倒れた香奈を運んだり簀巻きにして部室に閉じ込めたりと忙しかったのだ。ほぼ毎日に渡る説教の末、香奈は進歩している。…語彙力が。

「香奈…俺の名前、言ってみろ。」

「だぁれ〜?」

ゆっくり首を傾げた香奈の頭を、素晴らしくいい音で滝がひっぱたいた。少しはこれでストレス発散に…なっているのだろうか。
鳳は頭を抱え、跡部は現実逃避に空を仰ぐ。芥川は眠りの国へと旅立っていて、他はうなだれた。あれだけの付き合いであっさり忘れる香奈に、呆れと悲しさが襲っているのだ。

「香奈先輩、宍戸さんですよ!何でそんなにあっさり忘れるんです!?」

「研究に関係あるの〜?」

相変わらずの理系バカっぷりに、また正座をさせられて説教を受ける香奈。日吉辺りは特に熱心で、語彙力の許す限り延々と続けるのだ。メンタルトレーニングを日常的に行っているようなものだ。しかし、心無い一言に撃沈していく。

「…香奈先輩、今日はもう戻っていいです。」

「はぁい。日射病対策した方がいいよ〜。」

パタパタと倒れ伏すレギュラー達。日吉は内心現実逃避をしながら、素っ気ない一言を放った。そんなもので狼狽えたり、ダメージを受けない香奈だから遠慮はしない。

「…人相すら覚えようとしないなんて。」

深々と溜め息を吐き、提案した事を心の底から悔いている。
香奈は確かに、情緒的な事を中心に飲み込みが悪い。加えて、一般的とは言えない育ちと英才教育は洒落にならない。理屈をこねて納得させなければならないのだ。

「…俺様にも、不可能はあったか…。」

空を仰ぎながら、哀愁を漂わせる跡部。
隠語、略語は当然、専門用語は幾らでも知っているクセに肝心の基礎知識がおかしい。

「部活までに、何とかして下さい。今日は。」

思い切りぶん殴ってやろうかこの部長、と日吉の声音は恐ろしく低く、拳が握られていた。
元はと言えば、香奈をマネージャーにすると言い出したのが跡部。その後惨憺たる日常に、提案をしたのが日吉。自分は提案だけで具体的にどうとは言っていない、と政治家さながらの言い訳を自分にしていた。

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