理系バカと呼ばれ | ナノ
身に覚えが御座いません




晴れて退院した幸村。
香奈が日本人であり、氷帝の生徒だと知ると、会いたいと言い出したのだった。気持ちは解らなくもない。アメリカでは色々カバーされていたのだ。
カッコいいと持て囃されず可愛いね、としか言われなかったのは…アメリカ文化に染まった年齢層の高いスタッフだったからだが。

「香奈、立海の連中が幸村の礼を言いたいだと。」

跡部から言われて、香奈は首を傾げた。

「立海ってなぁに〜?」

合宿が終了するなり、凄まじく都合のいい脳みそから削除された王者立海。赤目のメカニズムも解明されていたので、言い方は悪いが思い残す事が無いのだ。
その言葉に脱力を禁じ得ない氷帝メンバー。あんなに濃い面子を、あっさり忘れる並大抵の事ではないが情けなくて泣けそうだ。

「…香奈、マジか?」

守秘義務は守るが、香奈にしてみればどーでもいい事を、いちいち覚える必要は無い。向日は頭を抱えながら、呻くように呟く。
香奈は嘘を吐かない。気休めなども、一切言わないのでメンタルケアはやらせられない。正直な事も時に欠点と化すのだ。
赤毛だからと向日と丸井を間違えた程、個体識別に無頓着。医療現場ではやらないが。

「だ、だったら幸村は覚えてるよな?患者だったんだし。」

「だぁれ〜?」

一縷の希望に縋った宍戸。無惨に砕かれてしまったので、日吉が盛大に叩いた。症例は覚えても、誰だったかなど興味がない。

「香奈先輩。自分の受け持ち患者でしょう!?そんなさっぱり忘れるものではありません!」

「せやせや!オトンも印象深いんは覚えとる言うとった!」

食事中だったが、終了するなり香奈は正座をさせられて、メンバーは懇々と説教を始めた。だいぶ慣れてきたのか、足が痺れにくくなっている。

「言いたい事言い終わった〜?」

火に油を注ぐ発言に、香奈を叩ける忍足と日吉は勢い良く叩いた。

「聞いていたのでしょうけどね。何割、解りましたか?」

「1厘〜。」

「九分九厘解っとらんやないか!」

「九割はどこに行ったの〜?」

国語力のあまりの低さに、嘆く教師がいる。慣用句や熟語はさっぱりなのだ。これでも、進歩はしているのだが。
単位は覚えるクセにそれ以外はからっきし。
肩で息をする向日や、眠りの国へ逃げた芥川。名作と呼ばれる小説を根本的に否定する、どこまでも理系な脳みそ。
最新鋭の機械から、ちょっとした生活の知恵レベルで片付けられないものまで作りかねない。

「香奈。立海の人達がね、お礼をしたいから次の休みに立海行こうね。」

綺麗さっぱり忘れる事を、滝は懸念している。

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