理系バカと呼ばれ | ナノ
食べる時間も惜しい
どれだけ無精でも、人間味が無くても香奈は日本が世界に誇る科学者であり、世界でも指折りの科学者になれると言われた逸材だ。教えを請い、教える。
公式の場で夕食を共にする事もたまにある。…本当に稀な事だが。
「…香奈。いつ習った?」
「何が〜?」
あまりにも完璧なマナーで跡部を筆頭に、唖然とするメンバー。一部は帰宅しているが、無精を知っているだけにギャップが凄まじいのだ。
「マナーだ。」
「覚えてないよ〜。こんなに食べられな〜い。」
前菜の段階で音を上げる香奈は、自分の食べる量を熟知しているのだ。年齢と性別を考慮されたメニューなのだが、それでも香奈は食べなさすぎる。
睡眠欲も食欲も凌駕する、知識欲。賞賛よりも何よりも、知りたいと言う欲望に勝てない。科学にのみ発揮される欲だが、幅が広すぎるのだ。
「跡部。俺らと同じ量じゃないよな?」
向日の呟きに、跡部は些か気を害したようだった。
「そんなヘマはしねぇ。年齢性別考えさせた量だ。予想以上に食わねえな。」
「香奈ちゃんの偏り方がおかしいんや。どう見たって少ないやん。」
「肉体維持の為に〜食べてるよ〜?鉄分も生理対策に取ってるし〜。」
忍足が香奈の頭をひっぱたいた。家族との団欒は存在しないが、日常会話は常に理系の話なのだ。
「香奈ちゃん、食事中もやけど男の前でそないな話すんなや。」
「はぁい。」
痛みはあまり無いが、衝撃は感じる。先天的に、痛覚が鈍い。それから医学に興味を示し、自分を分析し始めた。人体はまだ解明されていない事が多く、香奈はやりたい事が山積みだ。
そういうものだ、とやり過ごせない。
「ごちそうさま〜。」
個人的な感覚には、興味を示さない。
「そんなに残すなら俺食べていい?」
「…いいの〜?景吾君。」
「公式じゃ論外だが、今は非公式だしな。向日、好きにしろ。」
ペロリと平らげた向日。香奈はカロリー計算と材料の推測に忙しく、明らかにベクトルが間違っている。
「塩分21%、糖分33%に脂質」
忍足が再び叩いた。生々しい数字なだけに、食欲が減退するものだ。
「成分表も作らんどって。ホンマ香奈ちゃんの親顔が見たいわ。」
実父でも実母でもないから似ても似つかぬ姿だ。性格はかなり受け継がれているが、香奈の方が圧倒的に評価が高い。
複数の思考を平行して行える、それだけでも大した事だ。付け加えるならば、全てが難解である事。
食後に、跡部からメイドと大量の衣服を渡された香奈だった。
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