理系バカと呼ばれ | ナノ
名前と特徴覚えろよ




跡部は確かに氷帝の生徒会長だが、名前すら覚えられない事は有り得ないと自負していた。
根底から覆された事に、屈辱を覚えるなと言うには若すぎる。

「…信濃、俺の名前覚えてるよな?」

「向日?君だっけ〜?漢字解んないけど〜。」

「向日岳人だ!もう信濃お前、名前覚えろよ!あんだけ話してんのに名前疑問形とか泣くぞ!名前で呼べ!俺も名前で呼ぶ!が・く・と!覚えろよ!?」

支離滅裂なのだが、一方的に友人だと思えそうだ、と思っていた香奈にすげない事を言われたのだ。
めげない向日は大したものだ。

「やったら俺も。侑士って呼んでや?香奈ちゃんにここのメンバー全員覚えさせるんも良さそうやな。」

必要が無ければ覚えない、加えて忘れる事もあっさりやってのける、素晴らしく都合のいい脳みそ。マネージャーに据えても、一生覚えられないままで終わる。聡い者は何となく、そんな予感を察知した。
あながち間違いではない。

「間違えたらグラウンド20周走らせる。手塚の野郎じゃねぇが…信濃はそうでもしなきゃ絶対覚えねぇだろ。」

400メートルのグラウンド20周とは、今までロクに運動をしない香奈には辛いペナルティだ。跡部もそのぐらい、腹を立てている証拠でもある。

「1つ提案!俺達も名前で呼ぶから信濃さんも名前で呼ぶって事にすれば納得するよね?」

滝が香奈を見ると、目を瞬かせていた。

「なんで覚えなきゃいけないの〜?生きていく上では〜関係無い事だよね〜?役職覚えてれば〜いいでしょ〜?」

「良くないから言ってるんです信濃先輩!跡部さんの名前覚えてないって氷帝じゃ考えられません!」

嘆くように鳳が言うが、香奈は理系人間。本人としては、理路整然とした考えで意見を言う。

「考えられないって考えてるから〜結局考えてるんじゃない〜?」

「香奈ちゃん、つまらんツッコミ入れんなや!ややこしゅうなる!」

半ば哲学的な揚げ足取り。香奈にとって、不思議な事は世に存在しない。ただ知らないだけだと認識しているから、はっきり答えが出る数字に纏わる科学を追求している。愛も思想も存在しない、無機質の世界。

「じゃあ〜特徴で覚えればいい〜?」

「ま、まぁ最初だからな。香奈って呼ぶ。」

恥を忍んで、完全実力主義の氷帝テニス部としては奇跡的な、連帯感が生まれていた。一番楽なのは樺地だと誰が気付くだろうか。
本当に特徴でしか覚えない事を知るまでは、まだまだ時間がかかる。

「えっと〜わか?」

「若です。…香奈先輩。」

お互い苦労している。

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