理系バカと呼ばれ | ナノ
熱出したから風邪か
真田弦一郎と日吉若は絶体絶命の危機に瀕していた。それもこれも、香奈が高熱で学校をメイドに休まされた監視係。だが目の前の光景に息をのむ。
「亜鉛65.73ミリグラムアルミニウム4.3グラムを液体化させ…。」
延々と呟きながら、休まされた事をいい事に研究に勤しむ香奈。パジャマに白衣とミスマッチなのだが、その眼差しはマイクロ単位すら見誤ってたまるか、と言わんばかりの科学者。
シャーレから、金属の粉を量りに落としている。
「…真田さん、ボケッとしないで下さい。」
「う、うむ。」
ゆらゆらと揺れる頭に従って、不気味な事この上ない髪の毛。顔色が良いのは熱のせいだと断言しきれる不精。
完全に自分の世界に入り込んでいるので、日吉は髪を引っ張った。
「酸化鉄2グラっ!…若君?どうしたの〜?」
見上げる香奈は、顔が赤らんで目が潤んでいる。誰が見ても高熱だ。邪な考えを除けば。
しかし、香奈を見ているのは健全な男子中学生2人。加えて恋愛には悉く興味を持たない堅物である。
「……何、してんですか。香奈先輩。」
「市販より丈夫な半導体作ってた〜。」
たっぷりの間を置いて聞いた日吉に、香奈は無邪気に答えてしまう。
シャーレから零れ落ちた粉を見ようにも、髪の毛を掴まれたままでは見えない。そして中学生にはちんぷんかんぷんな答えだ。
「熱を出した、と聞いたのだが。」
「人間は常に〜熱を放出しているよ〜。」
そういう話ではない、と日吉がひっぱたいたが真田は香奈と目を合わせられなくなっていた。
息をのむ集中力の後に、潤んだ目を向けられたギャップは凄まじいものがある。香奈は通常運転でも。
「医者の不養生、なんて今更ですが叩き込みます忘れないくらい。真田さん、いいですね。」
「うむ。」
香奈の手からシャーレを取り上げ、真田に向かって日吉が突き飛ばす。真田は香奈を肩に担ぎ、さっさと実験室から自室へ強制連行。なかなかに息のあった作業だが、人道的とは程遠い。軽すぎる香奈は抵抗しても無駄、と手足から力を抜いた。
「すまないが、布団と紐を準備してくれ。」
「こちらに。」
香奈の父が使っていた、年期とその他諸々が積もり積もった布団。
背中に当たる柔らかいものを自己暗示で打破し、真田があっという間に簀巻きにした。日吉は危険物もあるので片付けは断念、跡部に連絡をして適当な安全を確認している機材に座る。
「香奈先輩、体温は何度だったんです?」
「39.6℃〜。」
「薬は。」
こうして餌付けさながらに無理やり飲み食い、薬も飲まされ説教を一日中受ける香奈だった。目を離せないのだ。
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